大好き! | ナノ


▼ 涙

話し合って結局私の進路は決まることはなかったけど…

『こんな俺についてきてくれるなんて言ってくれてありがとな、桜。』

と言ってくれたお父さん。その目には少しだけ涙が浮かんでいた。

─夏休み 東京‥

やっと夏休みに入り結城家へ行くと、哲くんのお母さんは快く迎え入れてくれた。

「こんにちは〜」
「桜ちゃん、こんにちは。どう?疲れた??」
「まぁ少しは…、でもお父さんもいて話し相手になってくれましたし…。」

少しだけ、お尻が痛い…。
哲くんのお母さんは、私のその言葉に驚いた様だ。

「蒼一さん来てるの?やだ私何も用意してないわ。」
「あ、でも直ぐに帰るみたいですから。」
「そうなの? ならいいんだけど…。」

お父さんは、東京で誘われてる仕事の方に返事をまだ待ってほしいと頭を下げにいってくるみたいだ。なんか、申し訳ない気がしたけど、進路はこの夏休みに決めろよと釘は刺されたからなんとも言えなかった。

でもこの夏、私はやりたい事を見つけるよ。
お父さんのためじゃなく自分自身のための何かを…。

…そうだ。

「哲くん、まだ練習してますか?」
「そうかもねぇ…」

まだ練習か…、そうだよね、もう準決勝だもん。

「夕食の後、私ちょっと行ってきていいですか?」
「ふふ」

私は微笑を不思議に思って首をかしげた。

「ごめんね笑っちゃって。哲也、桜ちゃんが来てくれること口には出さないけど楽しみにしてたから…きっと喜ぶわ。」
「そうですかね? へへ…」

私はちょっと照れてしまった。

青道に行くともう練習は終わっていて、私は礼さんに用があったから先に顔を出した。礼さんに会うの一ヶ月ぶり? もっとたったかなぁ…。

「礼さん、あの… 優さんに会いたいんですが、いる場所分かりますか?」
「クリス君に?」
「肩を故障したと哲くんから聞いて…」
「リハビリをするにはまだまだ時間はかかるのだけれどお父さんが熱心に付き合ってくれてるみたいで、たぶん今の時間帯なら病院に寄っているかもしれないわね。」
「連れていってもらえませんか?」
「…」
「お願いします。」

礼さんは少し戸惑った様子だった。でも、今の自分の気持ちを譲るわけにはいかない。私は静かに頭を下げた。

タクシーに乗り込むと、礼さんは礼さん自身に思うことがあったのか、一言も言葉を交わそうとはしなかった。

きっと“後悔”してるんだと思う。

理由は私には分からないけれど、そういう顔 なんとなくそう思った。

病院から出てくるのを待っていた。出てきた優さんの顔は少しだけ疲れていてそれが私は悲しかった。でもそれ以上に悲しかったことは、優さんの目から光が消えていたことだった。何も言えなくて、何を言ったらいいか分からなくて、大好きな人なのに…。だから、優さんが私に気がつく前に帰った。こんな自分が出来ることなんて無いって気が付いたから。

帰りのタクシーの中、礼さんは言った。

「何も言えなくていいのよ。言うべきじゃない…、クリス君の苦しみは私達が語っていいものじゃないのよ。
それにクリス君の分まで頑張っているあの子達がいることを忘れないでいてあげて。」
「はい…っ」

悲しさもあるけど、優さんの悔しさの分まで勝ち進めた青道を私も応援しなきゃいけない。

だから、

何も言えずにただ帰るだけの悔しさから出た涙を、その帰り私は必死で止めようとしていた。

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