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▼ 親心

もうすぐ全国の高校野球児達の全てが詰まった夏の大会が始まる。

でも私はなかなか見に行けない。

もう一回戦から見たいとか思ってたのに、倉持さんベンチ入りしてるし、哲くん達二年生にまた会いたいし…。
でもどちらかって言うと哲くん達に会いた...いやいや、何言っているの私は、倉持さんの彼女なのになんてことを.....。

...皆かっこいいだろうなぁ。
なのになのにそんな大好きな皆のところに行きたいのに、長野県は夏休みが短い ついでに冬休みも。よく夏休みが短いとその分冬休みが長いものだけど、長野県は違う。冬だって雪が多く降るのにも関わらず、冬休みがとんでもなく短い。そして夏休みも短い1ヶ月あるかないか…。よって夏休みが始まるのは7月の下旬。
こんなことってないよ、行けないじゃん。ちょくちょく休んで行けたらいい距離ならいいけどさ、長野から東京だなんてちょっとねぇ。

「オイ、オイ!」

呼ばれる声に気がつく、そう言えば授業中でした。

「授業聞く気ないだろ、お前!」
「なによ、そんなこと言うなら夏休み長くしてよ〜!都会みたいに7月の始めから8月の終わりにしてくれって県庁に言ってよ〜!佐野っち〜!!」
「佐野っちって言うなー!!!」

─‥

「なんか考えてたの?」
「何を?」

若菜ちゃんは少々呆れ顔で聞いてきた、私の質問返しに少し不満げな顔に変わる。

「聞いてるのはコッチ、蒼一さんのこと?」

お父さん…?

「あ!」
「え? なっ何?」
「忘れてた…」

そう、7月が近くなってすっかり忘れてた。

『それはお前の気持ちか?』

お父さんの言葉。これが原因でお父さんと和解してから初めて喧嘩をした。

『お前が行きたいわけじゃないんだろ?』
『私は...お父さんが行きたいならついてく..、だってお父さんは私と一緒に居てくれようとしてるじゃない。』
『それはお前の親だからだ。それにこれ以上お前と離れていたくないからだ。離ればなれの家族なんてもう…、俺は…。
それにお前が東京に行きたい理由がない。お前の言ってることは、俺のために行くみたいだ。』
『それじゃあ、いけないの?』

お父さんは私のために、私はお父さんのために。
それじゃあ、いけないの?

『ダメだ。』
『なんで、…なんでダメ?』
『例え本当に東京に行ったとして、桜..お前はコッチに何にも未練は無いって言えるか?』
『!!』
『何かをやりたいとか、そういう強い意志がなければ、もしお前が本当に辛いと思ったとき、コッチの方がよかったって思うだろ。後悔させたくない、お前が俺の子供だから。大切な…。』

お父さんの言ってることは絶対にないといいきれない。
そう、お父さんの言ったことは正論だった。

「なにそれ。」
「若菜ちゃん?」

私が若菜ちゃんに話終わった時、若菜ちゃんは走り出していた。

「若菜ちゃん! どこ行くの!? 待って!!」

何処に行くのか分からなくて、ただただ若菜ちゃんを追って走った。そして気付いたらいつの間にか私の家に着いていた。

ガラッと勢いよくドアを開けて、ドタドタッドタドタッドタドタッと進む…本当にこの家に上がるものは遠慮を知らない。

「お、若菜、どうした? 俺、今帰ってきたばっかでさ着替えるから…」
「蒼一さん、この際はっきり言いますけど、私あなたのことが嫌いです。」
「え? マジ??」
「うそ!?」
「「!!」」

それを聞いた私を含めた全員が驚いた。いつの間に若菜ちゃんはそんなことになったんだ…気づかなかった。

「私は桜に東京にいってほしくない、でも桜が誰かのためにすることなら、私は桜が強い意志を持っていることなら我慢できた。なのにあなたは!娘の父親を思う心を無視するんですか!?」
「別にそういうつもりじゃ…」
「じゃあいいじゃないですか。」

若菜ちゃんは自分の思いを伝えながらも、私のためにお父さんに意見を言っている。その姿が本当に嬉しかった。
それでも、そう言うわけにはいかないとお父さんは言う。

「桜が何かやりたいことがあるなら、俺は東京行きを認める。それが絶対条件だ!」

何かやりたいことか…、栄純は野球をやりにいくわけだけど私はそういうわけにもいかないしね。女だし。

「頑固者だね。」
「俺達はそんな奴に育てた覚えはないぞ、蒼一」
「気持ちを無視してるって話をしているんです。分かってますか?」
「俺だってすごくうれしいんだ、でも子供に苦労かけさせたくないって親心分かってくれよ!!」

「「「もうとっくに苦労かけてるよ!!!」」」

お父さんと若菜ちゃんとおばあちゃんとおじいちゃんの物凄い口論が始まって、私はしばらくそれを眺めていた。

そのとき電話が鳴った。

誰も出れそうになかったから私が出ると聞き覚えのある声が聞こえて、すぐに気づく。

「はい、麻日奈です。」
〈桜か?〉
「!! 哲くん!? どうしたの、珍しいね哲くんが電話してくるだなんて。」
〈…〉
「?」

様子がおかしいと声色だけで伝わってくる。

〈お前には話しておいた方がいいと思ってな…、落ち着いて聞けよ。〉
「う、うん…」
〈…クリスが肩を故障した。1年は野球から離れることになるかもしれない。〉

信じられない言葉、あの優さんが?

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