▼ それぞれの優しさで
純さんはいつだって私の幸せを願ってくれた。でも私は、そんな大好きな純さんの気持ちにこたえられなかった。
私…、こんなに皆に何かを与えられているだけでいいのかな。
「桜、倉持のところに行けよ。」
「え?なんで?? 私、自分の言いたいこと言えたからもういいよ。」
「…」
「だめなの?」
「いいから行けよ…」
私に倉持さんの所へ行けよと言う純さんは、目を合わせてくれなくて。いきなりの態度の変化に何かあると思って、私は倉持さんのところに行こうと思った。
そしたらいつもの場所に倉持さんはいた。
「倉持さん」「麻日奈」
「なんでここに…」
「あ…いや、なんとなく。」
「…」「…」
沈黙が流れ、それを破ったのは…倉持さん。
「麻日奈、俺、お前の事嫌いじゃないからな。」
「え…」
「その…あの時は色々理由があって即答できなかったけど、嫌いとかっていう理由じゃないから。むしろ…」
むしろ?
「俺もお前が好きだから。」
信じられない、目の前で倉持さんの言ってる事は本当? 純さんはこの事が分かってて私を倉持さんのところへ向かわせたの??
「振っといて俺から言うのもあれなんだけど、…俺と付き合ってくれるか?」
じゃあ、純さんは…
「麻日奈、泣いてるのか?」
「…純さんがっ」
「…あぁ」
ことの真相を倉持さんは話してくれた。
どうしてこんな…
倉持さんは先輩を優先した。私がなんて言うかなんてわからないのに…
「自分を責めるなよ。皆、自分の気持ちを貫いた、ただそれだけだ。… 誰も後悔なんてしてねーよ。お前だってそうなんだろ?」
「わからないよ…後悔してないかなんて。」
「…」
「私…、純さんが大好きだから…」
本当の気持ちだから伝えなきゃいけない
「でも…それ以上に倉持さんが好きだから、だから! こんなに…っ」
悲しい。
倉持さんに好きだって言ってもらえて、嬉しい気持ちでいなきゃいけないはずなのに。
俯く私は、ポンと頭を撫でられた。
「今は…泣いとけよ、ここに俺は居るから。」
気持ちの整理がつかない。優しさが胸に突き刺さる…。
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