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▼ だから もう少しだけ…

【伊佐敷純視点】

桜が泣いてるのに俺は何をしようとしてるんだ…。

いつもの場所で桜は膝を抱えていた。それを見ると、そう思ってしまった。

振られる事は確定だからすっぱり気持ちよく振られて…、そんなのただの自己満足だよな。あいつは罪悪感を感じる。

「…ごめんな」
「!!」

声に出しちまった。桜は勢いよくこちらを向き、ごしごしと目を擦り言う。

「純さんいつからここにいたの!? ごめんね気づかなくて。」

微かな泣き声を時折交えながら、明るく言う桜。

止めよう。そうどこかで自分がいっているような気がした。でも、もう決めたんだ。

桜を見て、あの桜との出会いを、あの日々を思い返す。
あの頃に比べたら、桜は笑えている。あの悲しそうな笑みはもうない。今の笑みは桜本来の笑みなんだ。


「笑うお前を、いつの間にかに好きになってた。」

心を決めたら、言葉は自然と出てきていた。

「そんな顔するなよ。」
「だって私…、今まで気づかなくて。」

驚きと切なさでいっぱいの顔。
相変わらず気持ちが顔に出やすいやつだ、投手には向いてねーよな。

「最初にお前に会ったとき、なんなんだこいつって思った。」
「私は…顔が怒ってて怖いって思った。」

今、初めて打ち明けたみたいな顔をする桜。…ちょっと待て。

「それ、あの時言ってるからな。」
「そうだったかな?」

とぼけんなと頭をワシャワシャと掻き回してやった。それでやっといつもみたいに笑ってくれた。

「俺は本当にあの時は何も知らなかった。でも悲しそうに笑ったお前を見て何でだ?って思った。だからその時からずっと気になってた。まー最初は全然話せなかったし、お前も敬語で距離感あったけどな。」
「…うん。」
「…応援してくれるお前は、近くにいてくれたお前は、俺にとって花だった。 気づいたら咲いてたんだお前は。お前の笑顔ってさ、花みたいに見ていたくなるんだよな、目に入ると。」

俺の話をいつになく真剣な顔で聞き、真っ直ぐに俺を見つめる桜にどうしても愛しさが込み上げてくる。

たまらず俺は抱きしめた。

「純さん…」
「ごめんな、こんなこと言って。お前の気持ちはどこを向いてるのかなんて分かってるのに、俺は結局…」

お前を困らせるだけで…

「今こうして…笑えるようになるまでの支えになってくれたよ、純さんは。」

桜は俺の背中に手を回した。

「あの時…どん底みたいだったあの時に、純さんは声をかけてくれた。それがどんな理由であれ私にとっては、こんな人もいるんだって思った。どこの誰だか分からない人間だったのにね、話しかけてくれるんだもん。
ここでこうして笑えるのは決して当たり前のことなんかじゃない。純さんが声をかけてくれなかったら今の私はなかったかもしれない。
恋愛とかそういう事じゃないけど、大好きだよ。どんな純さんでも。」

報われないなんて分かってた。

だけど、今はその言葉で十分だから。

もう少し、もう少しだけ…このままでいさせてくれ。

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