▼ 想い 3
【伊佐敷純視点】
質の悪い冗談だ。
俺はそうとしか思えなかった。
「桜のやつ、1年の倉持の事好きになってやがった。」
「倉持ってあの目付きの悪い、監督にタメ口叩いて怒られてた奴だよな。」
そう言えばこの前、桜に馴れ馴れしく勉強を教えてたからシメたな…。
「最近自覚したっぽいし…、そろそろ告白でもするんじゃないか?」
「鈍感だな、今更か。」
たしかに最近は本当に倉持倉持って言ってたな…。
「あいつが幸せなら俺達はそれでいいよなー」
「だよね。」
ニコッと笑う亮介と当然だと言う顔で皆は俺を見る。
「…なんで俺を見る?」
冗談じゃねーぞ!
こいつらのせいで桜に俺は好きだなんて一言も伝えられてねーんだぞ!! にもかかわらず幸せならそれでいいだぁ?
ふざけんな!
俺は1人屋内練習場を飛び出した。桜のいつもいる場所にいくと哲はまだ来ていないから、やっぱり待っていた。倉持の姿はない。
「桜…」
俺に気づいた桜は笑顔を浮かべ、歩いてくると俺に抱きついた。…相変わらず可愛い奴。
「純さん、お疲れ様!…あれ?哲くんは?」
「俺…」
「純さん、どうしたの?」
ダメだな、やっぱこいつが笑うとどうしても…
俺の様子がおかしいことが分かった桜は不安そうにしている。それが嫌だった。
「今…、幸せか?」
桜は一瞬不思議そうな顔をして、そして俺が一番好きな顔をして言った。
「うん! 皆がいてくれてた、だから今の私がある。幸せだって思わないことなんてないよ。」
桜が笑えるなら、桜が幸せなら、確かに俺もそれでいいかもしれない。俺が今桜に想いを伝えたら、あいつは困ると思う。
俺の手で泣かせてしまうくらいなら俺は…
お前は笑っていてくれ、いつまでも。
prev / next