▼ 想い 1
「ここが分かりません。」
そう言って私は倉持さんに参考書の問いを指差して見せた。
「お前…これくらいは覚えてろよ。」
「…」
「な…なんだよ?」
「じゃあ倉持さんは覚えているんですか? 覚えてなかったら、偉そうなこと言わないで下さ…」
ペチッといい音で額を軽く叩かれた。
「屁理屈言ってないでとっととやれ。」
…痛くないけどなんか悔しい、そう思いつつ額を擦った。
私はここ最近勉強をやっている。応援はもちろんするけどたまにはやらないと、今年受験生だもん。ちなみに家でやればよかったのだけれど、哲くんと家に一緒に帰るのが日課だから、 哲くん待ち の間の勉強である。
さっぱり分からない!
英語が日本人にとってなぜやらなければならないのか、という疑問を感じつつ私は奮闘していたら、倉持さんが声を掛けてくれたのだ。お陰でここ最近の間、哲くんが来るまで見てくれていた。
「おい…どう考えてもこんな日本語ねーだろ。」
「なんか訳し方分からないです。」
「確か今年受験なんだろ? 大丈夫かよ。」
「いざとなったら勘でいくしかないですね。」
運も実力のうちってね。しまった、もう一回叩かれると思ったんだけど、倉持さんの動きが停止する。その視線の先を見ると純さんがいた。あと、哲くんも。
「おい1年、楽しそうだなぁ?」
心なしか怒ってそう。何でだろ?
「あ…」
立ち上がり、後退りする倉持さん。
「桜、帰るか。」
「うん!」
倉持さんと純さんは仲良さそう!まだ出会ってから日は浅いと思うのに…なんて素敵な先輩と後輩なんだろう。
帰り道、哲くんと話して帰ると不思議なことが分かった。
「…で!倉持さんがね!!」
「…なんか 最近倉持の話ばかりするな」
「え? そうかなぁ」
そう言えば初対面でこんなに話せた人は倉持さんが初めてかも!
こんなこと今までなかったな。
─‥
練習試合が終わり、出ていた亮さんに声をかけた。
「試合お疲れ様!」
「俺のポジション分かった?」
「えっと… セカンド?」
亮さんを窺うように見て言うと、ニコッといつものように笑ってくれた。
「今度はそのはてな無しで言いなよ。」
「え!? じゃあ合ってるの?」
「うん、正解。」
やったぁぁあ!うんうんできたできた!!
「フッ 相変わらず顔に出やすいね。」
「よし! 倉持さんもこれでバカにしないっ。」
「?」「?」
思わず出た言葉に私たち2人は会話を止める。
「なんでここで倉持の名前が出てくるの?」
「えっ、なんかつい…」
気付くと出てきてしまう…これは何故?
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