▼ 私達はこういう家族 1
私は来てしまった、あの人の最後の試合に。
最後と言うところの説明はあの将司との会話に戻らないといけない…。
戻る?
いいよね、戻らなくても。いやいやいや戻っとこうよ、いやいやいやいや…
『プロと言ってももう試合にもほとんど出てないけどな。』
『そうなの?』
『たしか今度の試合でもう引退だ。俺は蒼一さんをずっと応援してたからその事聞いてたけど、あの人は本当にお前に何も話してなかったんだな。』
聞いてないよ、そんなこと。じゃあ皆はずっと知ってて教えてくれなかったってこと?…違うか、知ってることは当然だから言う必要がないと感じたんだ。お兄ちゃんも…何で…、と色々ともやもやした気持ちが出てきた。でも、過去を振り替えっていても仕方がない。
もう、こうなったら行くしかない!
『…行く。』
『? どこへ??』
『あの人が、最後出なくても見に行く!』
─‥
「でなかったなぁ」
帰ろう、来てたって知られるのもなんかあれだし…でも最後くらい…
どうしようかと悩んでいたら、いきなりガバッと後ろから誰かが抱きついてきた。
「うわっ!! え! 何!?」
「振り向くなよ、絶対に。」
何何何!? 何で抱き付いてるの誰?あれ、でもどっかで聞いたことあるような声だ。
「その声…」
「分かるだろ? お前の親父だ」
やっぱりそうだ。何、娘に甘えてるんだか…。腕を引き剥がそうと掴むと、がっしりとした筋肉にホールドされて不可能だ。
「…離してよ。」
「無理だなぁ グスッ」
「泣いてるの?」
「泣いてねーよ。」
やっぱりこの人は泣いていた。
少し話をすると、私達はご飯を食べに行くことに…、あーぁ 何でこんなことになるのかなぁ。当初の予定では見て直ぐに帰るはずだったのに。歩くの早いし、私に一回も目を合わせる気がないし。
そんなこと考えてたら一歩前を歩くあの人が言う。
「もしそうたが生きてたらさぁ、見に来てくれたかなー?」
「…分かんないよ、そんなの。」
「許してなんてくれねーよな、アイツは俺のこと。」
「うん。」
「即答かよ。」
お兄ちゃんが見に来るかなんて分かるわけ無い。でもお兄ちゃんはこの人に教わった野球ずっと続けてたから、もしかしたら見に来たかもしれない。今となっては、決して分かるわけがないのだけれど。
「…なあ桜、…お前は俺にさ…」
「?」
「本音を言ってくれたんだ、家族の中でお前だけが唯一。」
「…」
「そうたが亡くなった日に。」
亡くなった日、それは無くした記憶の日。
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