▼ ごめんね。ありがとう。2
「私にはもう家族がいないの」
「…」
亮さんは黙って私の話を聞いてくれた。
「私のお母さんはもういなくて、お父さんとはもうどう接していいのか分からなくなっちゃって、お兄ちゃんもこの前亡くなった。
本当に悲しかった。
お兄ちゃんの部屋に入ったときにね…思い知らされたの。存在していた人間が、気配が、面影が、段々と色褪せて消えていくあの感じを。
その時私は独りだって思ったの。家族なんてみんな私が死ぬまで生きてるわけじゃないなんてそんなの当たり前の事なのに。
分かってたのに…」
寂しいよ…独りが。
もう喋ろうとはしない私に亮さんは言う。
「たしかに家族がいなくなるのは悲しいと思う、誰だって。でも桜、もうお前は分かってるだろ?」
「…」
「桜は独りなんかじゃない」
「え…」
「独りじゃない、俺達がいる。
桜には練習に来いよって言ってくれる人。1人で練習を見てても声をかけてくれる人。プリンをいつも一緒に食べようと言ってくれる人。桜が何か言い出すまで待ってくれてる人達。泣きそうな顔で座ってる桜に声をかけてくれる人…
いるだろ?こんなに」
「でも、ここを離れたらもういない…いないじゃない」
色褪せて消えていくあの感覚を…側に居た人がいなくなる悲しみを、もう味わいたくない。ここを離れて残されるだけの現実が怖い。
ここを離れたら、私はきっと総てのことに負けてしまう…
「また、来ればいい」「!!」
亮さんは私の手をとった。そして優しく言ってくれた。もちろんいつもの笑みを浮かべながら。
「大丈夫だよ…俺達は生きてるんだから。消えることなんてないから。
寂しくなって、悲しくなったら、またここに来ればいい。ここには俺達がいる。
だから頑張ろう。
きっとここでもらったものは桜にとって明日への糧になる。
明日頑張ろうと思う糧になる」
「うん…っ。うん…」
涙が出た、嬉しくて。優しさが…温かくて。
「また泣いて」
「だって、亮さんがそんなこと言うから!」
目をごしごしと擦っていると、亮さんは違う方向を見て笑っている。
?
「皆もなんか言ったら?」
「やっぱり気づいてたのかよ」
そこには皆が、1年の皆がいた。
「皆で盗み聞きなんて趣味悪いなー」
「え!?」
「亮介だけおいしいとこもっていきやがって」
「そうだな」
そう言う純さんは何だか不満そう。
哲くんは、優しく笑ってくれていた。
「「「「桜!! いつでも来いよ!」」」」
「…!! 皆…っ」
勇気をもらった…
あなた達に今伝えたい言葉はただひとつ。
「ありがとう」
私はその時、ここに来て初めて心の底から笑えた様な気がした。
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皆さんこんにちは管理人の桜です。
大好き!がここで一区切りつきました。
3年生の方々を絡ませていこうと思った結果 哲さんの親戚設定になりました。
もう本当に好きなんです、かっこよすぎる3年生達。なんかすみませんこんなんで。
ちなみに主人公の兄の技術の高さを表すために捕手の古田敦也さんを参考にさせていただきました。
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