▼ 離れてしまったら 2
【伊佐敷純視点】
「あえてずっと聞かなかったけどよ、あいつ…桜って何があったんだよ」
ずっと気になっていた。
桜がどうして学校に行っていないのか。何で桜がここに来るようになったのか。
なんで2人は何も言わねぇんだよ。
「…」
「皆、何かがあったんだって言いはしねぇけど感づいてる。でも、哲や桜が何も言わなかったから、だから俺らは聞かなかった。
けどよ、そろそろ話してくれたっていいんじゃねーか?
俺はもう桜にとって俺達は赤の他人じゃねぇって思うから…」
哲は少しだけ躊躇った様子を見せたが、決意したように俺と向き合った。
「俺は桜が自分で話したい時に話せばいいと思っていたから、俺から話すつもりはなかった。
けど、あいつは話す気はないみたいだ。
俺がお前にそれを話してあいつが傷つく結果になったとしても…、聞きたいのか?」
「うるせーよ、迷わせるようなこと言うな」
迷わねぇよ、何を言われても。
「あいつの名前は麻日奈桜だ」
「それがどうしたって……」
麻日奈って言えばプロの麻日奈蒼一だよな。
…ちょっと待てよ、まさか…
その時俺の頭に過った嫌な予感は最悪なものだった。
「稲実の…麻日奈さんの妹なんて言うなよ」
「残念だけどそうだ。ついこの前亡くなった麻日奈そうたの妹だ」
言葉が出なかった。
あいつがあんな風に笑う理由は…どこかで兄貴を俺達と重ねてたから?
「桜の母親はすでにいない。父親とは不仲で会話をまともにしているところを最近は見たことがない。あいつは父方の祖父母と今は住んでいるが、母親が亡くなって以降もう家族は兄しかいないと思っている。あいつにとってはたった1人の家族が亡くなったんだ。だからもう独りだと思ってるんだ、この世にもう誰もいないみたいに」
「…」
何で気づいてやれなかったんだ、何でそんな勝手な事あいつは思ってるんだ。
馬鹿野郎、ふざけんな。
「聞いて後悔したか?」
「するわけねーだろ」
「純」
「━━ついてんだ」
「?」
「ムカついてんだよ! あいつに!!俺に!!!」
気が付いたら走っていた、あいつのところへ。
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