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▼ 離れてしまったら 1

〈へー、そうなんだ〉
「うん! そうなの、私その人達のおかげで今外に出れてるんだと思うの」
〈 で、最近はどうなの??〉

私は長野の友達、若菜ちゃんに電話をしていた。

「んーとね、私の親戚の哲くんがね、1日500回もバットを振ってるの。最近私よくそれを見てたんだ。誰よりも上手くなりたい…その強い想いが周りにも伝わっていって、もう今じゃ大所帯で毎日素振りしてるんだ、 ははっ
哲くんなんてこの前、初スタメン、初打席、初ホームランだよ!もう皆で騒いじゃった。哲━って。努力は嘘はつかないって本当だね!!」
〈うん〉

あっさりした返答につい笑ってしまった。じゃあさらに力説を。

「本当にすごいんだよ!若菜ちゃん。直向きに頑張る皆の姿が力になる。勇気貰ったよ」
〈桜…〉

急に元気のない声に変わる若菜ちゃんの声。

〈その貰った勇気でこっちに帰ってくる気にはなれないの?〉
「…」

言葉が出ない。

いざ、形にされて突きつけられると。

私はあのお兄ちゃんとの思い出が沢山ある長野に帰らなければいけない。
果たして私は今ここから離れたら…どうなるのか。
どうやって生きていけるのか、彼のいない現実を突きつけられるだけの辛いあの世界で。
現実逃避もできないあの場所で。

そう思ってしまうほど、ここは居心地がよかった。

「ここを離れたら…。思い出も、面影も、与えてくれたものでさえも無くなるんだよ。
そこにいたのに、たしかに存在していたのにさ、離れたら…繋ぎ止めていたものもなくなってまた私は独りになるんだよ… そんなの哀しいよ」
〈…ちょっとまっ─〉

─‥
ガチャと電話が切れた。

桜の言葉は途中からそうたさんのことを話しているように聞こえた。

…悲しくたって辛くたって生きてくしかないじゃない。
私だって未だに亡くなった事実を信じられない。でも、桜は生きてる。生きているのに…こんなことじゃ死んでるのと同じ。

だからこそ伝えたかった。

確かに今頼りにしているものはここにはないかもしれない、
でも、
それでも、

あなたは独りなんかじゃない。

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