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▼ そこでみたもの 1

【伊佐敷純視点】

「オラァァ!!!!!!」
「伊佐敷ぃ…お前声だけは出てるな」
「そうっすか?」

くそっ、俺だって本当は投手に…。
その時俺の頭を占めていたのは、この前宣告されたコンバートのこと。

━━━━━━━外野手‥

━━━━チームのために活かしてほしい‥

生き残る道があるなら、俺は絶対に…。

─‥
やっと…終わった。監督のノックやべぇだろ、あれは。死者が出る…。
死にそうになっていた俺は目に入ってきたものについ声が出ていた。

「あ」
また来てる。そいつは昨日もそこにいた。
俺達が走ってる間に片岡監督と何かを話していて、そのあとずっとあそこに座っていたんだ。今日も来てんのか。ボケーっとしてて変なやつだ。
その日は特に気にするわけでもなくただそう思った。

そいつが来るようになってから、
3日目。
相変わらずそいつはボーッと練習を見ていた。
4日目。
相変わらずそいつはボーッと練習を見ていた。
5日目。
相変わらずそいつはボーッと‥━━━━━って!!
なんなんだあいつはっ!!
応援するわけでもねー、勉強するわけでもねー、偵察に来てるわけでもねーし、
毎日毎日毎日毎日毎日俺達の練習する前から来てボケーっとして俺達の練習を見ていやがって!!!!

そしてひとつ、出てきた疑問。

…練習前??
あいつ学校行ってねーのかよ。制服もきてねーし、って言うかあれはどう見ても中学生だろ。

本当になんなんだあいつはっ!!

移動授業からの帰り小湊に会うといつもの笑みであっさり言ってのけられた。
「聞いてみればいいじゃん、監督に」
「か…監督に…」
「え、気になってるんじゃないの?」
「(こいつ!!!!!)」

小湊はニコッと笑って言うわけだが…、監督と面と向かって話すなんて怖いだろうが!と大声で言えるわけもなく。
早く行ってきなよと俺の心境を知ってか知らずかまた笑う。理解した上でだな…これは絶対。

「あ、結城」
「!!」
「ん?なんだ」

呼ばれたのに気が付いた結城は俺達の方へ近づいてきた。なんかこいつ前よりでかくならないか?

「ねー 結城も気にならない?」
「?」

おいおいおい、こいつに聞くのかよ。

「この前監督と何か話していたり、最近ずっと座って練習見ている子」
「…」
「?」
「予鈴だ、俺は帰る」

突然わけがわからねぇ事を言うと、結城は俺達から離れていく。

「オイ、待てよ!…予鈴なんて、まだ鳴ってねーじゃねーかよ」

変な態度のアイツに俺は不審に思っていた。

━━━放課後練習前

「おい!」

そいつはボーッとしていてたが声をかけるとちょっと驚いたように俺を見たが直ぐに表情はもとに戻った。

本当になんなんだこいつ。

「…」
「…」

「……」
「………」
何で俺まで黙っちまってんだよっ!!
何してんだ、と言おうとして見ると遠慮がちに聞いてきた。

「…怒ってるんですか?」

「…はぁ!?」
「だって…なんか…」

そう言うと目をそらす。苛々してついでかい声が出た。

「なんかなんだよ!?」
「…」

黙んのかよっ!!

「…顔が…怒ってる…」

は?

「おいっ! 桜っ!!」
「結城!」

慌てた様子の結城は俺達の間に割って入った。キョトンとした顔をして結城を見ていたこいつの次の言葉に俺は驚く。

「どうしたの、哲くん」

「哲くん!?」

まさかの哲くん呼びに驚いていると結城は真顔で
「伊佐敷!カツアゲはよくないぞ」
と言った。

何言ってんだこいつは…。

━━━数分後

「なんだ、そういうことか」
「相変わらず哲くんは面白いね、ふふっ」
「ふふじゃねーよ」

どうやらこいつらは親戚の関係らしい。
何で練習を見ているんだか聞こうと思ったけど、なんか…こいつ…。

話している2人を眺めていると怒号が飛んできた。
「おい!! 伊佐敷!結城!いつまで喋ってんだ 早く来い!!!」
「やべっ」
「桜、またあとで」
「うん!頑張って来てね」
「! あぁ!!」

俺はその時の結城の反応を別に気にもとめてなかった。
でも部活後、俺はあいつらの会話を聞いちまったんだ。

「久しぶりに笑ってたな」
「そうかな?」
「無理してる感じには見えなかった、ほんの少し前の方がもっと笑えてたのにな…」
「私、もう笑うことも出来ないかもって思ってたんだよ」

そんな台詞をを苦笑しながら言っている。
…なんだよ、それ。

「頑張ったな」
「私は何もしてないよ、哲くん達が頑張ってるのを見て…、お兄ちゃんだってこうだったんだって思い出せたの。ただ直向きに、本当に真っ直ぐに…。こんなところでまたそれを見れた…」

何かを懐かしむように微笑している。

なんなんだ。

なんで笑ってるのにあんな悲しそうなんだよ。

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