▼ 一歩だけ 2
「桜でてきたか?」
「いや そうたさんのお葬式の日以来声かけても、出てこない。 返事はくるけど出てくる気はないみたいだ」
「そうか…」
哲くんと将司の声が聞こえた。
なにもする気になれない。
本当は、学校だって行かなきゃいけない長野に帰らなきゃいけない。
でも踏み出せない。
昼間ずっと寝てた私は夜に寝れなくて、起きてる。最近はずっとそう。そんなとき必ず哲くんは、気が向いたらでいいから、“青道”に練習を見に来いよ、と言う。
そういえば今年はまだ行ってないことに気が付いた。哲くんは、青道に入ったって言っていた。哲くんが入ってから行ってないや。
確か“不作の年”ってきいたような…気がする。酷い言われようだ。
―ブンッ ブンッ
何この音
――ブンッ ブンッ ブンッ
…
……
………
寝れないー!!!!!寝る気はないけどっ。
どうしても気になって外から聞こえてくるこのブンブンを窓越しに見た。
そこにいたのは、哲くんだった。
こんなに努力をしている哲くんを見るのは初めてで…。直向きにバットを振る。
ただそれだけなのに、本当にそれだけだったのに、気になった。見てみたくなった。
“不作の年”と言われるあなた達を。
その時、まだどうしても踏み出すには重いと感じる足を、私は一歩だけ踏み出せた気がした。
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