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▼ 俺は 2

【原田雅功視点】

そのまま自主練に行く人や寮に戻る人の多くがグランドを後にしていた時間で、もう残っている人達はまばらになっていた。

『おぉ〜い!お〜い!! おいっ!!!』

そんな中でやけに五月蝿い声がした。
『そんなに叫ばなくても分かります。こんな近距離でうるさいですよ、麻日奈先輩』
『お前相変わらずハッキリもの言うやつだなー。 まあ、どうでもいいけど』

怒るかと思えばどうでもいいと適当に流す。大雑把な性格の先輩に相変わらずだと呆れてしまった。

『じゃあ、今日はこれで俺帰るから!』
『お疲れ様です』

先輩はじゃあなと笑う。
去り際に、自主練は死ぬほどやれよとこれまた大きな笑顔を作った。先輩だってもっとバット振った方がいいですよなんて言葉は、明日ケツバットを喰らわせられるはめになりそうなので言えなかった。心臓が弱いからわざと振らないんだよとかおかしなことを前に言っていたけど明らかに言い訳だ。

寮に取り敢えず戻ろうとすると先輩の大声がした。

『お前なんでここにっ!?』

気になって先輩が行った方へ行く。

『??』
『あ、お兄ちゃん誰か来たよ!!』
『は?あれ、雅功どうした?』

先輩の他に小柄な女の子がそこにいて、俺を見るなり先輩の後ろに隠れる。
…なんだ、こいつ。

『いや…先輩こそ何してるんですか。女連れ込んで』
『連れ込んでねーよ、おい。 桜、挨拶くらいしてやれよ。そして言い訳もしてくれ』
『言い訳って…、』

俺が女の子をジーっと見てたらその子は恥ずかしそうに俯いた。

『麻日奈桜…です、そこの…そうたの…妹』
『そこってなんだよ!?』
『…』

妹。この子が、この…先輩の?
あっけにとられて2人を見ていると、先輩は妹を指差し笑う。

『あ、雅功、こいつあんまり馴れてない人だと畏縮して大人しいだけだから。気にすんな』
『何それ、バカにしてんの!?』
『おぉ!怒った怒ったー、ははっ!』

面白そうなものを見るような顔をして笑う先輩に妹は眉間にシワを寄せ、顰めっ面だ。

『ばーかぁぁぁぁぁぁあ!』
『おいおい、久々に東京来て兄さんに会っておいて早々ばかはないんじゃないの?って待てよ、おいっ!』

怒った先輩の妹はもう遥か遠く。
それにしても驚いた。妹と言われてみれば確かに似ている。
いや、それもそうだがまさかこんなところで兄妹喧嘩をするとは…。

『追いかけなくていいんですか?』

先輩は妹の去っていった先を見つめるだけで動く気配はない。

『…』
『先輩?』

何も答えないでいた先輩はぽつりと呟く。

『寂しいとか思ってたりするんだよな、きっと桜は』

そう言ってる先輩は今までに見たことない顔だった、そんな先輩にふと思い付いた疑問を聞く。

『ここに来たこと後悔してますか?』
『それはぜってーねーよ。俺は俺のいいと感じたことをするだけだ。でもそれが原因で桜が寂しいと思ってる。
それでも俺がここに来たことを後悔していないってことは…、一緒なんだ。それじゃあアイツと』

アイツって親父さんのことか?

『俺の家族はじじとばばと桜と……アイツ、中でも桜は大切にしたい。アイツが投げ出してきたものを俺は投げ出さない、大切にしたい』

真っ直ぐな目だ。

後で何故俺にそんな話をしたと聞くと、

“俺がお前をいいと感じたからだ”と相変わらずの大雑把な人だった。

─‥

「泣けるときに泣いとけ」

俺は泣いている桜の頭をポンポンと軽く叩き、その場を後にした。

本当は…気づいてたんだ。

先輩が父親のことを嫌いになりきれないでいること、そしてずっと嘘をついていることを。でもそれを俺は誰にも言わなかった。

先輩が隠し通そうとしていたものだったから。

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