▼ 悲しい…あの人は? 2
そうだ、お兄ちゃんが死んだって連絡があの人からきた時だってこんな雨だった。
「桜?」
名前を呼ぶ声に振り返ると、屋内に入ろうとしない私を心配したのか哲くんがいた。
「哲くん…」
「そろそろ中に入ろう、冷えてきた。お前の親父さんも心配してたぞ」
哲くんまでそんな顔しないでよ、とか言うはずだったのに…。
「うん…、そうだね…」
こんな素っ気ない言葉しか出てこない。
でも、哲くんは私の手をとり、私の手を引きながら葬儀の行われる場内に入っていった。
聞いた話によると、お兄ちゃんは朝から雨のひどい日にいつものように練習をしに出ていき、結城家玄関を出たすぐ側で亡くなっていたそうだ。
成長していくにつれ丈夫になっていたはずだったのに、心臓発作がでてそのまま。
朝5時に出たせいもあって、お兄ちゃんが発見されたのは発作が起きてから2時間後だった。
あの人から連絡があった時のことは、覚えてない。
その時、酷いことを言ったのは今のあの人を見れば分かる。もしかしたら私は、お兄ちゃんが死ぬわけないとか喚き散らしたのかもしれない。
直ぐにおじいちゃんとおばあちゃんと東京に向かい、冷たくなったお兄ちゃんを見たときは泣くことしかできなかった。
誰の言葉も聞こえない。
聞きたくない。
嫌。
『嫌だ!! 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!! なんで?何で皆いなくなるの!?
......独りに.....しないで..』
─‥
「桜、桜!!」
気がつくと目の前には成宮さんと雅さんがいて哲くんはその場には居なかった、2人とも私の前では泣かないようにしてることはまるわかりで、だからあったかい気持ちになって、
「ごめん…」
また私は泣いてしまった。
でもその時、私よりもあの人、お父さんの方が泣いてたってことを私は知らなかった。
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