▼ 悲しい…あの人は? 1
雨が降っている。
その時、ぼーっとした意識の中で"涙雨かな?"なんて思う私は…
「お兄ちゃん…」
と呟いていた。
もう二度と私に返事をしてはくれない、それは分かっていたのにね。
…もう本当にいないんだね。
今日はお葬式。
私の兄、麻日奈そうたのお葬式。
お兄ちゃんは、野球をしてたあの人譲りの野球センスでシニアの頃から結構有名選手だった。もちろん捕手。
高校生になってお兄ちゃんは野球留学をした。
私はちょっと寂しかった、でもお兄ちゃんがしたかったことだから、そんな気持ちは我慢をした。
行き先は東京、あの人の近くへ。
でも相変わらずお兄ちゃんは嫌ってた。
私は…、
仲良くしてほしかったのが本音。
でも、自分の気持ちを押し付けるのはよくない。
それに “私自身“ は、あの人とどうしたいのか自分でも分かってなかった。だから、そのことは私の心の中にとどめていた。
東京でお兄ちゃんは親戚の結城家にお世話になることになった。当たり前だけどお兄ちゃんだけ。
私は長野のおじいちゃんとおばあちゃんのところのまま。
お兄ちゃんは、青道高校の近所なのに稲城実業高校へ通っていた。
『変なの』
『何が?』
『こんな近くに甲子園を目指せるいい高校あるのに、何で稲実??』
『…』
お兄ちゃんは私から目を逸らし少し黙った後、すぐにいつもみたいに戻って言った。
『そりゃ、アイツの出身校だからだ。でも青道自体は好きだぜ。片岡監督は俺達が見学に行くと必ず野球のことやアイツのこととか相談のってくれるからな』
私はお兄ちゃんと哲くんと一緒に見学していた時のことを思い出す。片岡監督は相談を持ち掛ければ親身になって話を聞いてくれるいい人だ。
確かに…、ちゃんとした理由だ。
『じゃあ、何で稲実?』
そうたずねると、お兄ちゃんは笑みを浮かべて答えた。
『俺がいいと感じたとこだから』
その時のお兄ちゃんの真っ直ぐな目を私は忘れたことはない。
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