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「あぁああぁぁさみぃ」
全身ガタガタいっている先輩を哀れみの目で見るアリア。
「そこまで言う寒さではなかろう?」
「人間は大人になるにつれて寒さに弱くなるもんなんだよ餓鬼。子供はいいよなー」
いつも「お前の方が子供だ」と言い合っている二人は、些細な話題でもすぐこうなる。
なんだとー!と先輩を睨みつけるアリアに私は助け船を出す。
「つまり、先輩は体年齢がおじいちゃんってことだよ」
私の言葉を聞いて、ほほうと鋭い笑みを浮かべるアリア。
しかし、その後の真弘先輩の反撃は私にクリーンヒットした。
「んだと珠紀!……趣味が神社仏閣巡りのお前に言われたくねぇなぁー」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべるこの先輩に私は黙って地面の雪を一掴みし、ぎゅっと握って渾身の一撃を放つ!
「あぶねっ!」
しかし先輩の瞬発力では軽々と避けられてしまった。
まぁ、予想通りだが。
「戦いはもう始まってるんですよ先輩!行くよアリア!」
「りっ、了解だ!」
「げっ!?二対一かよ!まぁ俺様にかかれば避けれない球なんてないからな!」
「かかってこい!」という先輩に「余裕こいてると痛い目みますよ!」と返して、3人の雪合戦は火蓋を切った。
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「…なぁ、珠紀」
「…なに?アリア」
ヒソヒソ声で会話をする私達。
戦いの火蓋が切って落とされてから直後、まず雪玉の確保の為私達は玉依毘売神社の方に向かって駆け出した。
真弘先輩は多分玄関先から家の敷地外に出たのだろう。
息を整えながらアリアが小声で聞いてくる言葉に、私は苦笑した。
「…雪合戦とは、"戦い"なのだな」
「アハハ…」
こんな戦場みたいに辺りに常に気を配りながらやる雪合戦なんて、聞いたことがない。
きっとこんな雪合戦どこにもないよ…。ごめんねアリア!
アリアに間違った知識を与えてしまっていることに、後ろめたくなる。
私達は高校生だし、言ってしまえばそれなりに戦いの場を経験したから、今自然と雪合戦以上の雪合戦になってしまっているのだろうと思う。(まぁ、その戦いの相手がアリア達だった訳だけど…)
「まぁとにかく、雪合戦は雪を投げ合う遊びだから。そんなに真剣な顔してやる物ではな…」
「カラスが来たぞ!」
私の言葉は中断され、意識も一気に今私達が隠れている物陰の向こうに集中される。
「どこだちびっ子ー!正々堂々と勝負だ!」
そう言って辺りを見回して私達を探す先輩は、どこか悪役みたいな気配があった。
なんか、意外と楽しんでる?
「どうするのだ珠紀?投げても良いのか?」
「あ、うん。じゃあ正々堂々と行ってやろうじゃないの!」
私が駆け出し先行して雪玉を投げる。
先輩はそれに気付き、よっと言って避ける。
アリアは物陰に隠れながら私の援護をしてくれる。
「出て来いちびすけ!」
真弘先輩の標的はあくまでアリアらしく、挑発するような口調でアリアに向かって軽く雪玉を投げる。
アリアもあれで負けず嫌いだ。
物陰から勢い良く出て行って、両手に持った雪玉を先輩に投げつける。
しかしそれはまたもや軽く避けられ、今度は真弘先輩の番。
「くらえ!必殺、俺様トルネード!!」
なにそのネーミング!?と突っ込もうとした次の瞬間、今までのものと比べものにならない程の速度の雪玉がその手から発射された。
きっと先輩の風の力を使ったのだろう。
先輩の放った雪玉は、アリアの鼻先にすぱん!と音をたて命中した。
もちろん手加減はしてあるだろうが、普通のそれより格段も速い雪玉をくらい、いくらモナド・アリアでもダメージはそれなりにあったようで。
「ううぅ…」
顔についた雪を必死に落とすアリア。
「どーだ!真弘先輩様の必殺技は!」
はっはっは!と勝ち誇った様に笑うどこまでも子供な先輩に、私は一言申し上げることにする。
「先輩、遊びに力を使わないでください!どこが正々堂々ですか!あと子供に本気を出さないでください!ホントに…どっちが子供なんだか!」
呆れた様に言うと、さすがにばつが悪そうな顔をする先輩。
「いや…まぁ悪かったよ」
素直に謝る先輩に私はよし、と言って先輩に近寄ってからアリアに向き直る。
「じゃあアリア。好きなだけどうぞ」
そう言って先輩の体を固定。
目を丸くした小さな先輩と、目を細めた小さな聖女はそれぞれの反応を見せる。
「ま、待て!待てまてマテ!!?悪かったって!ぉ、おい離せ珠紀!!」
「安心しろ珠紀、お前には当てん。カラス、お前はこの雪玉で頭を冷やせ」
「頭どころか体冷やす気だろお前!!風邪引いたらどうしてくれ…」
「大丈夫ですよ。バカは風邪引かないっていうでしょ?」
「それは安心だな」
「お前らいい加減にしろー!!!」
雪の中でも僕らは緋色
2013.1.25
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