鴉の憂鬱
授業終了のチャイム。
昼休み、いつもの如く屋上へ直行。
扉を開けて、広い空間を一望して、人がいないのを確認すると彼はニッと口角を上げた。
「今日も俺が一番乗りだな!」
いつもながらの自己満足な結果に、俺はうんうん、と一人頷いている。
「…一体誰と張り合ってるんだ?」
後ろから、祐一の呆れ声が聞こえた。
「うっせーな!別に張り合ってねぇよ」
そう。別に誰と競っている訳でもない。
ただなんとなく習慣になってしまっているだけ。
「先輩に付き合ってこんな競争するヤツ、そうそういないだろうな」
少し遅れて拓磨がやって来た。が、会話の内容はバッチリ聞いてたみたいだ。
「お前もうっせーぞ拓磨。つーか敬語だろ?け・い・ご!」
事あるごとに敬語を忘れる後輩を叱咤し、いつものベンチに座る。
まぁ、確かに。
俺と張り合ってぎゃーぎゃー騒げるのは珠紀くらいか。
彼女は真弘と言い争う事が多い。
故に喧嘩友達みたいなもの。…まあ、大抵は真弘をたしなめたりする目的が大きいのだが。
そこでふと思う。
あ、そういやアイツ来てねぇな…。
いつもなら、拓磨の後に続いて5分もなくやってくるはずなのに。
……まあ、俺には関係ねぇか。
真弘と珠紀、そして拓磨は昨日、宇賀谷の蔵を調べていた。
しかし、彼らは先日の戦いのことが頭から離れず、少しの気持ちのすれ違いから、最後には珠紀と喧嘩の様な別れ方をしてしまったから、顔を合わせにくかった。
一方的に悪いのは自分の方なのだが、心を見透かしているような彼女の発言に、自分が悟られるのが怖くて喧嘩腰で逃げてしまったのが昨日の夕方。
彼は素直に謝るという行為がどうしても苦手である。
故に今だ珠紀に会っても、どんな態度を取れば良いのかわからなかった。
そんな時。
「すみません、おくれました!」
息を切らして屋上に駆け込んで来る慎司。
「まーた例の如くか?」
笑いながら拓磨が聞いた。
「べ、別にそんなんじゃ!今日は少し先生の手伝いをしてたら…」
「はいはいわかったからさっさと座れ」
女子生徒にモテて度々集合に遅れるかわいらしい顔の慎司(羨ましい限りだ)をなだめて、俺は焼きそばパンをかじった。
「もー…真弘先輩まで…。ホントにそんなのじゃないんですから」
言いながら席につく慎司。
すると、ふといつも隣に座る彼女の姿が見当たら無いことに気が付いた。
「あの…、拓磨先輩。今日、珠紀先輩は…?」
ぴくっ。
一瞬、指先あたりが反応してしまった。
関係ないかんけーない。
俺は今アイツの事を考えないように
「今日は休みだ」
「やすみぃいいいい!?」
あ、しまった。
「びっくりした…。急に大きな声ださないでくださいよ先輩」
「…先輩、珠紀が休みで、どうかしたんすか?」
「………」
皆の視線が自分に注目してしまって、一気に汗が出て来る。
「あ、いーや?何でもねぇよ」
あくまで冷静に答えたつもりだが、声が若干挙動不審だ。
「そ、それより理由は何なんだよ」
悟られないように話を続ける。
「さぁ…。それは言ってなかったすよ」
「…風邪、か?」
「大丈夫でしょうか?」
俺以外の守護者たちは口々に言う。
風邪?昨日あんなに元気だったのに?
いや…きっと、俺達が(主に俺が)酷い言葉を浴びせたせいで夜眠れなかった…とか。
はたまた、俺達が(主に俺が)泣かせたからしばらく泣いて泣き疲れて来れない…とか。
…いや!根本的に、喧嘩して会いにくい、または会いたくない、とか…。
考えれば考えるほど、「お前が悪い、謝るべきだ」と自分自身に言われているようで、胸が苦しくなってきた。
しかたねぇ…。
「帰りに様子でも見に行くか…」
真弘は、今日くらいは素直になろうと心に決めるのだった。
そんな、無自覚な関係。
鴉の憂鬱
2012.9.25
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