3
少し行った所で、空を見上げる彼の姿を見付けた。
なんともなく元気そうにしているその人を認めると、ホッと息をついた。
「はじめさん」
静かに声をかけると、彼はゆっくりと振り向いた。
「…ただいま、千鶴」
そして優しい声音と表情で、私の名を呼んでくれた。
「どうしたんですか?こんな所で…」
持ってきた羽織りを一さんの肩に掛けると、ありがとう、と笑みを返してくれた。
私は先程まで一さんが見ていた方向を見上げるけれど、そこには空が広がるだけで、特にめぼしい物は見付けられなかった。
「?」
首を傾げてみると、一さんは微笑みながら言った。
「いや、何かを見ていた訳ではない。考え事をしていた」
「…考え事、ですか?」
その優しい表情を見ながら、私は尋ねる。
「幸せ、とは目に見えるものなのだな」
一さんは、本当にしあわせそうに、そう呟いた。
「この地に2人で住む様になってから、俺は心が常に幸せに満ちている様に感じる。朝起きて一緒に朝飯をとり、家に帰るとお前が笑って迎えてくれる。毎日お前と過ごせることが、俺にはとても贅沢なことだ…」
一さんは、少し頬を赤くしながら話してくれる。
でも、それを聞く私はもっと顔が赤いのだろう。
「俺にとっての幸せの形は、千鶴、お前そのものだ」
そんな風に目を見て告げられれば、私はますます赤くなるしかない。
「…私も、一さんといれば幸せです。一さんが、私の幸せです」
彼が幸せならば、私も幸せ。
彼がいれば、私はどこでだって生きていけるだろう。
「……今夜も冷えます。そろそろ帰りましょう」
私は幸福な気持ちで、一さんに声をかける。
「ああ…」
一さんはそう答えてから、すっと私に右手を差し出した。
「今夜は冷える…。繋いで帰ろう」
「…はい!」
私達は真っ白な道を2人で歩きだした。
雪、寒空
2012.9.25
[ 3/5 ]
[prev] [next]
[mokuji]