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花の優しい香りがする。
こんなに気持ちを休めて眠るのなんて、久しぶりだなぁ、なんて私は思っている。
…ここはどこだったろう。
そんな疑問も、今の私には小さなことで、私はまた眠気に誘われて沈んで行く。
――――…ちゃん、
――…きて――起きて。
『千鶴ちゃん、起きて』
どこからか、頭に響いてくる声。
それは私の好きな、優しい声。
「早く起きて、土方さんにお茶入れないと怒られるよ」
その言葉で私の頭は覚醒した。
「えぇっ!?もうそんな時間!?私いつの間にそんなに寝て……」
「おはよう、千鶴ちゃん」
飛び起きてまず目に入ったのは、彼の満面の笑顔。
「安心していいよ。鬼の副長さんのお世話はもう卒業したんだから」
しかし、それは彼が悪戯をしている時の顔だ。
私の頭は一瞬思考が停止したけど、すぐに自分達がいる場所を思い出した。
「…おはようございます。総司さん」
私たちは今、家から少しだけ離れた日の当たる草原で、二人寝転んでいた。
周りには、可愛らしい白い花が優しく咲き広がっていた。
とりあえず、寝起きの挨拶も程々に、私は髪を整えその場に正座した。
「なんで正座なの?」
総司さんが私の行動の謎を尋ねてくる。
「いえ…何だか久しぶりに気が張ったので……」
私はそんな風に答えた。
まだ新選組にいた頃は、こんなに気を休めることなんて無かった。
理由は様々で、それは『恐怖』からだったり、『戦の場』だから、という理由だったりしたけど…。
とにかく、久しぶりに"鬼の副長"の不機嫌を想像したために、体が強張ってしまったのだった。
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