短い平穏

ヤンを研究者ではなく崇拝者としてみてしまうのは、本人にはいい迷惑だ。
この迷惑が、ヤンを予定よりも早くハイネセンから追い出してしまったのだ。
朝に作ったオムレツが本人の満足した出来で、ご機嫌から始まる一日。
それが終えるとヤンは出すことのない原稿を書こうとテラスにテーブルと椅子を置いた。
しかし、楽しみに欠けた音に妨害されてしまう。
緊張しているカーチャルと、やたら多い黒いスーツをした輩が目に入る。

「反平和活動防止法違反の容疑で拘留させていただきます。」

全く心当たりがない。二人は嫌な噂に関して全く知らなかった。
知っていたとしても、捕まる理由にはならない。
一番偉いであろう人の身分証を念入りに確認するが本物であった。
なおさら怪しい。
同盟の連中が何か始めるつもりらしい。

「心配しなくて大丈夫だよ。まさか裁判なしに死刑なんてないだろうし」
「・・・・・・えぇ、そうね」

いつも履かない革靴を履いたヤンを見送ったカーチャルは、家の中に駆け込んだ。
キッチンの床を一部外すと、そこからブラスターを取り出す。
さらに旅行にでもいくのか、デカイ頑丈そうなケースを取り出した。
そして寝室まで駆けあげる。
軍服を取り出して着替えるかと思えば、服に何やら大量に小細工をした。
目覚まし時計や電話を分解し、一部だけ持ち出すと、手袋をして家を出た。

「妻になり、俺がおとなしくしてると思うなよ」
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