最高の友人

退役したからと言って、楽なわけではない。
宿舎は明け渡さなければならないし、家は探さなければならない。
彼女はいくつかの物件に関する資料を床に並べた。
床の上の女帝は、理想な物件の少なさにため息をつきながら、片付いた部屋をながめた。
あまり散らかす方ではない。そもそも散らかすような物が存在しないのだ。
物と言えばアルコールの瓶と服ぐらいだ。
その他にもあるのだが、軍人にばれるとかなり自分の身を陥れる品ばかりだ。
仕込みナイフやリチウム、硫酸、クジラすらも瞬殺する毒など色々ある。
最低限以外は捨ててしまおう。ある程度は残す気でいるのが、女帝らしさを象徴しているのだろう。
資料を手にして女帝は、私生活にはできの悪い元上司の元に向かった。

「ヤン提督、カーチャル元准将が来ましたよ!!
いつまでそうなさってるつもりですか」

ソファーに座り寝ていたヤンは、驚いて立ち上がった。
引っ越しの準備に忙しいため訪問はないだろうと踏んでいたのだが、忙しいのはヤン家だけらしい。
ユリアンが働き者だから機能しているようなものだ。
もしも面倒を見るものがいなければ、どうなっていたか。ユリアンが地球から帰宅してはじめに見るものが、ヤンの栄養失調による死体だろう。
堂々と部屋に上がり込んだカーチャルは、資料をヤンに投げつけた。

「好きな物件はこっから選べ。
俺は絞ったから、選ぶのはあんたな。」
「リストアップされたんですか。
てっきりそういったことは気にしない方だと思ってました」
「どこでもいいんだけどなぁ。
これを選んだ基準は何なんだい?」

そう聞かれたカーチャルは、部屋の周りを見渡してから答えた。

「退路を複数確保できること。
辺りを見渡して状況把握できること。
最低この二点だな。
どうせ監視されるんだろ?」
「へぇ、結構大変だね。
今からそれを考えてたから疲れないか?」
「あのな〜隠れ家の条件は本来これだけじゃねぇんだぜ?
全て揃えたらハイネセンは下手したら居られない」

絶対に工作員になんてならないと決めたユリアン。
実際この条件二つから追加するのは一つだろう。
工作員が出入りしても怪しまれない溶けこんだ人気のある場所だ。
これが一番大変で、最後には理想の場所に専用の建物をたててしまうらしい。
ビルの一階をショッピングモールにしたら、確かに怪しまれない人気のある場所だろう。

「それとユリアンにアドバイスしてやろうってな。」
「はい、なんですか。」
「工作員ってのは信用してる相手だろうが、貰い物には口をつけねぇのさ。
信用できるのは自分が用意したやつだけさ。」

何が言いたいのか。自分を信用しろ、他人は疑えと言いたいのか。
この発言はただそのままのことを言っているなんて、ユリアンはこの時点では考えもしなかった。
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