振る旗の違い

ミュラーは後に“鉄壁ミュラー”として名を馳せることになる。
彼と女帝に帝国の地にいた際の面識はない。
若い士官を視界の隅に生息させながら、警戒を解かずに話した。

「亡命者だ。うまい人生なら顔馴染みぐらいにはなれたかもしれんな。」
「そんなことはないでしょう。白兵戦で成果をあげていたことでしょう。
ロイエンタール、ミッターマイヤー両提督とならぶほどの」
「白兵戦が専門ではないんだがな。
ついでに言えば女だしな」
「え」

ミュラーは相当な驚きをぶつけた。
鋭い目に整える気のない髪。時々義眼が異質な妖気を漂わせる。
女性とはほど遠いものがあったが、腕の細さから確かに女性ではあった。

「名乗り忘れていた。
カレン・カーチャル。自分でも純粋など似合わない名だと思う。」

カレンとはキャサリンの愛称だが、確かに似合わない容姿ではある。
「純粋な」という意味だが、容姿からは「男らしい」という意味をつけた方がいいように見える。
だからといい本名を名乗るのは気が引けた。
特にファミリーネームを口にするなどこれから先の生涯では遠慮させていただこう。

「それよりヤンがあれほど軍人らしくないので驚いたのではないか?
ローエングラム公は覇気のある方だからな」
「我々にも軍人に見えないような可愛らしき方が出入りしてますから。」

正確には軍人とはちょっとずれた人ではあったが、ミュラーは今思い出した人を言う。
それ以外に解答しようがなかったからだろう。
ミュラーはできる限りこの女帝を怒らせずに話を聞いてみたかった。
しかし、そろそろタイムリミットと感じたミュラーは打ち切ることにした。

「身内をオーディンに残してきたのでしたら、伝言を受けましょうか。」
「いや、身内を嫌って亡命したんでな。
下手をしたら兄に殺されかねない。私情を挟まない人でね。」

もしキルヒアイスが聞いていたら、一発で兄の名前をあげたかもしれない。
彼女の顔つきが微かに兄の存在を匂わせたからか、それとも話の内容からか。
どちらにしろ、自分の上にある旗が違うだけで人生は狂うのかと改めて感じさせられた。
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