振る旗の違い

彼が一人で行けばいいさ、と言う態度は彼女の怒りにそのまま直結した。

「ラインハルトは卑劣な暗殺を嫌うが、部下までそうとは限らねぇだろ!!」

確かにそうなのだが、この状況においてヤンを暗殺するだろうか。
しないとは言い切れまい。今後の不安の種を取り除くにはちょうど良い。
ヤンとラインハルトの会談に護衛として行く旨を覆すことはなかった。
シェーンコップもフレデリカも笑いながら手を振るしかない。彼女の言っていることに一理あるのだから、否定する要素はない。

帝国軍総旗艦ブリュンヒルトの内部は、機能をそこなわない程度の美しさを感じさせた。
華美にしないのはラインハルトが美しいからか、単にそれを毛嫌いしたからか。
予想するにはラインハルトの人柄を彼女は知らなさすぎる。
卑劣な行為と裏切りを嫌い、公平にありたい彼の性格は理解してはいるが、それより先は範囲外の話だ。
青年士官ナイトハルト・ミュラーがヤンを案内する後ろ姿を見送りながら、しばらく待つことになるのだろうと気を緩めずにいた。
ミュラーに対するヤンの本音の挨拶を耳にしてため息をついた。
確かにミュラー並みの指揮官がいればかなり楽な人生だろうが、ヤンの周りにいる有能な彼らが聞いたらどう思うか。
女帝は下らないと思いながら、黙って時が過ぎることを待った。

「お話をよろしいでしょうか」

砂色の髪と眼を持つ彼に話しかけられた。
話しかけるなど変わっているとしか感じなかったし、罠を予感させもした。
形式の型にはまる話し方は当然できるのだが、そんな気分になれず見返した。
義眼の手入れをしておくのだったと、その後後悔したが今に関係ない話という枠に入れておく。

「小官はナイトハルト・ミュラーと申します。
白兵戦のプロとお見受けしましたので」
「好奇心に負けたというわけか。」
「・・・・・・」

ミュラーは礼儀とは無縁の人と感じたのと同時に、片眼から放たれた異様な光にデジャブを感じていた。
当然のことではあるが、まさか理由が血が同じだからとは思わなかっただろう。
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