賛否による停止

ハイネセンから遠い兵士たちには怒りと絶望感に満ちていた。
目の前に広大な敵がいるなか、無条件に負けを認めるなどおかしな話だ。
確かにそうなのだが、今さらの命令違反もおかしな話であることに気づくべきだ。
通信司令官を罵倒した者もいたが、それこそ理不尽なことだと気づくべきだろう。
怒りと絶望感に満ちた兵士たちの中では、一市民としての人情を語ることすら勇気のいることになっていた。
それを女帝は冷たい目で眺めていたが、兵士が「真の正義」と口にしてその目は険しいものになった。

「あんたらの正義ってなんだ」
「は?こんな理不尽な停戦命令が正義と言えるか!?」
「なら無視してハイネセンの市民を見殺しにするのか?」
「ラインハルトを捕らえて交渉すればいいのさ。
ハイネセンから去らないと主君が死ぬぞってな」
「それは帝国がしている今と変わらねぇな」

戦友たちの血相をかえて立ち上がるが、女帝は相変わらず険しい目をしただけだった。
全員がかかって来ようと勝てると言いたげである。実際勝てるのだろうが。

「お前は亡命者だから言えるんだ。
俺たちの祖国への愛はあんた以上だ!!
国を捨てたやつらに比べたら」
「“薔薇の騎士”を全否定したな。あいつらなりの正義を否定したんだ。
別に今からラインハルトを殺しても構わんが、あとから来た怒り狂った増援部隊に殺されておさらば。
俺らが天国でハイネセンにいる身内が攻撃されるのを見るわけだ。
おい、傑作だな。命を数で見るのは軍人だが、人なら重みで見るもんだろ!!」

これでヤンに不愉快な訴えをしようとする輩は確かに減った。
いや、減らすために女帝は来たのだろう。一市民の人情をこの言い方をされては、押し返すには相当な思考が要りそうだ。
ポケットウイスキーの瓶を振り上げて落とした。最後の仕上げの威嚇に兵士は自分たちの考えに水をかけたそうだ。
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