賛否による停止

彼女はこれから先も一個艦隊を指揮することはない。
階級からすれば一個艦隊を指揮する立場になることはあるはずだが、自分自身の立場から決してすることはなかった。
代わりに自身の居場所を確立しようとすらしなかったのだ。
媚を売ることを良しとせず、暴力による支配と傲慢さによる自己主張を好まざるとした。
実際、彼女とヤンが話すきっかけとなったあの演説でもいい子にすることはなかった。
実は彼女はその前日に功をあげていたのだが、誇ることもせずヤンにすら生涯言わなかったそうだ。
彼女の居場所は二回の例外以外は与えられたものばかりだった。
一つは自分自身が亡命したこと。
それによりヤンと巡り会うが、あくまでキャゼルヌが仕込んだことで自ら頼んではいない。
もう一つはこれから先の未来に味わうことになる。
バーミリオン星域会戦は同盟軍が不利ではない状況から始まった。
補給線は同盟の方が有利であったし、地の利はこちらにあったこともある。
どんなに専門外だろうと、女帝は柄に合わない仕事に必死になっていた。

「エネルギーが切れたらまずい」

艦隊を指揮する彼女ではないが、もしもの際は状況が変わるものだ。
効率的に効果的に動くにはエネルギーは必要不可欠だ。
理由はともかく、キャゼルヌみたいにエネルギーや補給を心配していた。
白兵戦と戦略の心得はあるが、それ以外で手伝える点はないことをよくわかっていた。
しかし、何もせずに最悪のレクイエムを聴いている気にもなれず、柄にもないことを心配したりする。
そこにコーネフの戦死の知らせが入った。

「ポプランの友人が・・・・・・」

時々一緒になってポプランで遊んだものだ。
コーネフと一対一で会話をしたことはないが、賢いやつだったのは覚えている。
この戦争であと何人が死の祭りに参加するのか、考えたくなかった。
その祭りに自分が参加するか否か、それが運悪く勝敗の結末を感じるはめになるのだ。
ヤンと同じ戦艦にいるうちは。

「ヤン、今さらなんだが、いいか?」

ラインハルトの厚みあるカーテンを目の前にしていた時だ。
不意に思い付いてしまった上に気づいてしまったことを言おうとした。
しかし、ユリアンの方が先に動いていた。仕方がない。自分の話は今さらなのだから、あとに回そう。
あとに回してその発言をすることになったのは、ラインハルトを視界に入れてミュラーに阻まれた後だ。

「とんだ権威主義に陥ったものだ」
「・・・・・・ヤン、急がないとハイネセンが落ちるかもしれない」
「カーチャル、それはローエングラム公の意志に反する」
「ああ。だが一時的にとがめられようが、良き戦略家のものから我々を無視しハイネセンに向かう。
一人では無理だが、上官が複数いればやれるさ。
人間の心理はそういうものだ。」
「本当に今さらの話だね。ハイネセンに兵は送れないし。
向かったのがミッターマイヤーなら間に合わない。」

効率的な攻撃指示をした後、ヤンはそれが当たればラインハルトが死なずに済むな、と考えたとは予想したくない。
しかも予想は当たり、無条件降伏を呼び掛けられてしまったのだから。
|
- 36//61 -
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -