二つの勇気

ラインハルトを戦術レベルで勝利するための下準備とは面倒なものだ。
後継者のいないラインハルトを倒せば、忠誠心の置き場に困り同盟には願ったりな事態になるわけだ。
そのためにブラックホールを背にして戦うなどかなり無謀であった。一歩誤れば自らがブラックホールの中にいたことになる。
そう考えると背中に嫌な感触が来るが、今はそっとしておきたい。
長すぎる遠征により、帝国は補給に飢え始めるのは目に見えており、兵士の士気にも生存にも関わる。
しかし、そうまでしなければラインハルトとの短期正面決戦は叶わないわけだ。
「逃げる演技ばかりうまくなって・・・・・・」とムライ中将が皮肉を吐くなか、楽観主義になりワーレンを追っ払ったことを喜べない女帝がいた。
悩みに答えが出せないまま、時はあっさりと過ぎてしまうものだ。
四月十一日のことである。出戦にさきだっての慣例で、半日の休暇を全将兵に与えたのだ。
下手をしたら最後の休暇だが、女帝は悩みの答えを出すために自室に籠るつもりでいた。

「いたわね、カーチャル。
ヤン提督がお呼びよ。ヤン提督の私室に・・・・・・」
「やはりそう来たか」

予想が外れればと考えていた予想が見事に当たり、女帝は最悪の未来を予言してやりたい気になった。
この呼び出しに応じる気になれないのだ。それを察したフレデリカ・グリーンヒルは、背中を押すことが最善と考えた。

「無視をされては勇気を出した提督に失礼ではありませんか?
どんな答えでもいくべきですわ」
「何の答えも出す資格なんか俺にはないさ。
未練がましく何もできない人が、決断する資格なんかない」
「そう決めつけているのはあなただけですよ。
何もできない訳じゃないですし、決断する力がない訳じゃない。
カーチャル、逃げていることは分かっているはずよ。
本当は出ている答えに向き合えないだけ。
こんなときは理性や一般論は捨て去るべきよ」

そう言われて捨て去れるなら捨て去るさ、と嫌味らしく言ってみるが、その台詞が自分のものではないように思われた。

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