女帝の昇進

次にヤンとラインハルトがぶつかった時、それが歴史の一つの節目になるのは今の状況からみて明白といえる。いや少々言い過ぎかもしれない。
イゼルローンを脱出し、今はビュコック提督が同盟の壁になっていた。
もしこの老人が負ければ、ヤン艦隊は各個撃破の対象になり。当然ヤン艦隊は急がねばならないが、当然ビュコック提督らも生き残らなければならい。出来るだけ開戦を遅らせ、出来るだけ生き残るのだ。
政治の権力をパン屋の言う「自暴自棄」に使い出した同盟のために、死んでやる義理はどこにもない。権力者を逆に陥れても良いのだが、メリットは無さそうだ。
ビュコック提督らとの合流は本当に戦う戦力が底をついてからだった。フェザーン回廊への道が閉ざされると帝国に信じさせたのが、功をだったようだ。
もしこの事を伝えておけば、もっと他の戦い方もあったのではないか。

「あぶないあぶない」

仮定はあくまで仮定に過ぎない。
いくら過ぎたことに手を伸ばしても、届くはずのないものに意味はない。今はこの場の無事を良しとして、ハイネセンに向かうことにした。
今まで停滞していた人事、武勲を一気にまとめるかのように昇進が決まったのだ。記録更新同盟最年少でヤンは元帥になったのだ。

「わー、今さらだな」

確かに女帝が言うことももっともである。
これだけの地位をくれてやるからた勝ってこいなのか。それならもう少し早く寄越すんだったな、女帝は鼻で笑う。
この見た目平凡軍人が政治に干渉する恐怖心が招いた結果が今なのだ。ラインハルトを倒すまではヤンに軍を自由に動かせる高い地位を与え、都合よく戦わせてからでも遅くなかったのだ。
狭く、動きにくい地位に今まで渡しておいて、今になりでかい器など役に立たないではないか。
同盟の軍人など足りていない今となっては。

「高い塔のてっぺんから地上の戦争を見下ろし、破壊寸前で直せと言うのだから可笑しな話だ」

むしろ落ちて地上を歩けと言いたくなる。
その女帝の口を塞いだのは、意外すぎる自分宛の辞令からである。
昇進しないことになっていたカーチャルに昇進が決まったからだ。
元工作員という疑いの的になる彼女の昇進は驚きではあったが、ヤンは驚きはしなかった。
同盟の軍人が少ない今となっては、彼女がなんだろうと関係無いらしいな。
率直な感想だった。