ユリアン、フェザーンへ
カーチャルはユリアンなしでヤンがやっていけるか心配し、朝からモーニングコールをすることになった。
それだけヤンの日常は信用していない。
出てきたのは歯磨き中の英雄。なんとも言いがたい姿だ。
「英雄の歯磨き姿を撮影し、売りさばけば高く売れそうだ。
生涯苦労しないだろうなあ」
「英雄の姿をみて、英雄を英雄と信じない者が大半だよ」
「ジャーナリズムは飛び付くな」
そういわれると不愉快なヤンだったが、カーチャルが朝からかけてきたので急用かと思った。
話を聞いたヤンは、自分がそこまでに見られている事実を再確認した。
「まだやっていけるさ。私はまだそんな年じゃないからね」
そうだろうか。
埃とカビを友達にするような人が言うが。
カーチャルがいう筋もないが。
ヤンはカーチャルを安心させることがユリアンのためだと判断した。
それは間違いではないのだろうが、正しくもない。
「なんなら会いに来るかい?」
「あぁいってやるよ。」
ヤンからしてみれば、まさか本当に来るとはと感じたが自分で言ったのだから仕方がない。
それに来てもらえればヤンとしては愉快な限りだ。
ユリアンがいない分、やることは多かった。
女帝はサンドイッチをくわえたまま、掃除機片手にヤンを殴った。
仮にも英雄が、掃除機に殴られるなど誰が考えるか。
女帝が起こしたのは、掃除のためなどではない。掃除機は手短にあったから使ったまでだ。
「帝国はとうとう、フェザーンを掌中に落とした。どうされますかな」
カーチャルは意地悪そうに笑いかける。
実際に意地悪しているわけだが。
二人の意見は同意見で、感情論にも近いものがあった。
イゼルローン要塞の放棄。しかし、それはユリアンの家を無断で捨てることになる。
そのうえ、面倒なことにイゼルローン要塞を放棄することに賛成してくれるか。賛成してくれなければ動けない。どちらにしろ、条約の際にイゼルローン要塞を失うのだ。早いか遅いかの差だ。
カーチャルはフェザーンにいるユリアンの心配をしつつ、ローエングラムの策に感心する。
やはりフェザーン回廊をしようするとは、やり手で部下も優秀らしい。
ハイネセンに5割、いや3割でもいたら楽に戦争できただろうに。
「さてさて・・・その掃除機、おろしてくれないかい?」
「あぁ、また殴られたいか?」
「作戦が頭から抜け、ボケたら戦争が楽になるね。ボケ老人には何もわからない。それでいいかい?」
カーチャルは掃除機を下ろしてため息をついた。
女帝は女帝らしく笑えばよいのだ。上にたちながら。