ヤン最大の敵

ヤンがイゼルローンに帰還できたのはユリアンのおかげと言えるだろう。
ユリアンがヤンの教えを忘れていたら、イゼルローンに戻ることも命すらも怪しかったのだから。
カーチャルがユリアンに会ってまず始めにしたことは撫でること。ひたすらに撫でる。ユリアンが振り払うまで。
カーチャルはユリアンを弟として見ているせいか、何かと子供扱い。

「無事で何よりだ、ユリアン。ヤンは相変わらずだがな。」
「もう、査問会に喚ばれるようなことがないようにしてくださいね。心配はしませんが、人材不足ですから」
「ユリアンもな。人材不足なんだから生きろよ」

会話がなんだか男と女とは思えないが。二人の会話といえば誰しもが納得するのは、二人の性格を知るからだろう。
ヤンには、ユリアンには少し器用に女性と会話してほしいと思うわけだ。
あまりに器用すぎて、博愛主義者にだけはならないで貰いたい。
カーチャルはヤンに数式を渡して、要塞に要塞をぶつけるなんてしなければ、と願いながらその場をあとにした。
それは叶わなかった。
ガイエスブルグ要塞の突撃はあまりにもショックだった。
何人の帝国軍が巻き込まれたのか。上司が愚かなために死を共有される必要はない。そんな権利がある訳じゃない。
ヤンはどうだろう。そんな権利がないぐらい理解してある。
だからこそ誰かが支えないといけない。考えすぎも厄介だが、考えなさすぎも厄介だ。

「ヤンは市民について考えすぎだ。いいことではあるんだが。
そして、自己犠牲がすぎる。」

カーチャルは自分が護衛役だと忘れていない。
しかし自分がもっとも敵とするべきはヤンなのだと、思わざるおえなかった。
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