怒りの代弁

女帝が目にしたのは、ジェシカが倒れた青年を抱え、軍人を見ている光景だった。
女帝には予想外の光景のため、困惑していたが、状況を把握すると怒りが込み上げた。
こんな真似をした大佐に対する怒りと、軍人としての自分自身にだった。
軍人としてこれを止めることは許されない。しかし人としてこれを止めることは許されるはずだ。
自分が軍人であることを彼女は呪った。しかし、次の光景で女帝の理性が切れた。
ジェシカをクリスチアン大佐がブラスターで殴ったのだ。
片手にはビンを、片手にはブラスターを構え、大佐のブラスターを撃ってみせた。
武器をとばされた大佐は彼女の存在に気づいた。
女帝であると気づいていたかはともかく、セラミック製ブラスターを所持していたことから敵であり軍人とは認識できたはずだ。
しかし気にもせず大佐は高笑いをしながらジェシカの頭を軍靴で踏みつけた。見せしめと言わんばかりに。
女帝は本領を発揮した。
酒が入っていながら、大佐が防ぐより先に鳩尾を蹴ってみせたのだ。
そして、よろけたところを容赦なく撃った。
女帝が狙ったのは両足だった。
ジェシカが人の死に喜ぶ人ではないと判断した。それが悪役だとしても。
大してジェシカのことを知らなかったが女帝は確信していた。
クリスチアン大佐は仰向けに倒れる。
兵士は当然女帝にブラスターを向けたが、一瞬の躊躇いが過ちとなった。
兵士は彼女がカーチャルだと気づいたのだ。
そのための躊躇いが市民につけいられた。
兵士からブラスターを奪ったり殴り合いになった会場を、彼女は眺めた。
早く逃げなければ捕まるだろう。しかしそそくさと立ち去るにはまだ早い。
彼女はクリスチアン大佐を見下ろした。

「いい勇気だな。武器を持たない市民に武器を使うなど。
しかも抵抗しない市民にだ。」
「秩序を乱したのはあの女だ。」

カーチャルはうんざりして、ブラスターからレーザーナイフに切り替え、クリスチアン大佐の右手に落とした。
秩序は自身を守る盾ではない。

「おっと手が滑った。酒のせいかな。」

クリスチアン大佐の叫びをカーチャルは頭から切り離した。
ジェシカの遺体の横に座り、ビンに入っている残る酒を遺体の頭にかけた。
ヤンの大切な人であるジェシカ。ここまで無残な死があってはならない。
まさか、こんなことになるとは考えていなかった。
今の世ひどい話だが軍人が生き残るのだ。
女帝は彼女を密かに気に入っていた。彼女の言論を好んでもいた。

「武力で示す我々より、言論で示す平和的なお前さんが先に逝くなんて世の中は理不尽だ。」

カーチャルは頭のなかでヤンに何を言うか考えつつ、捕まらないうちにその場をあとにした。


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