男は最悪な知らせに耳を傾け、うんざりした顔を見せた。
これでは落ちこぼれというより、ただの小娘ではないか。見合いの欠席が何を意味するか本当に理解しているのか。
していないからこのような真似を起こすのだろう、と。
噂には聞いていたマーティルダ落ちこぼれ令嬢。噂を越えたバカを見たように男は感じた。
「あの小娘、黙って繋がれてればよいものを。わざわざ自分の首を絞めるとは」
「しかし、いかになさるおつもりで。」
質問をしたのはマーティルダ家に代々仕え続けるザナル。年はかなりいくが、頼りになることはあの落ちこぼれに仕えている事実から分かる。
今回の見合いに協力した人物だ。
「ふん、鎖に繋ぐべきやつを繋ぐには荒いやり方も必要かな」
「・・・」
ザナルは黙って話を聞く。
彼が協力した理由はマーティルダ令嬢の安全確保である。
結婚してしまえば自由に動き回れない代わり、ある程度の安全は保証される。相手が欲しているのはただの地位なのだから。
軍にいるとザナルが知ってからは、そこから連れ戻すことが目的にはなったが、本来の目的からずれてはいない。
ただ、彼が積極的になれないのは、マーティルダが自らマーティルダ家のために、ローエングラム候のもとへ行ったことにある。
こちらが考える以上に落ちこぼれではないのかもしれない。
「たく、こうなったら手っ取り早い手段しかないな。」
「何をなさるおつもりで」
「これさ、これ」
オーベルシュタインに事が伝わるのは少し遅かった。
フェルナーはそれを知るとオーベルシュタインに伝えるより、ある人物を調べたからだ。
「マーティルダを迎えにきた車が爆発したようで、迎えにきた執事ともに被害に遭われたと連絡がありました。執事はザナルというマーティルダ家に代々仕えた者で、今回の見合いについては親戚に協力していたようです。マーティルダの容態は重傷ですが、命に別状はないようです。」
オーベルシュタインは今回の件がザナルの勝手な行動と見てはいない。
ただ、暗殺をするように言われ、ザナルはマーティルダが死なないぐらいの爆弾を仕込んだのだろう。依頼人に背いて。
ザナルの狙いはマーティルダを結婚させ、おとなしくさせること。
依頼人は恐らく今回の見合い相手で、マーティルダの無断欠席から暗殺し、婚約者を気取り地位を獲得する気でいたのだろう。
ザナルは仕えていたマーティルダを守るために汚い役を買って出たのだろう。
憶測の域は出ないが。