願いはこの手で
オーベルシュタインは人に言う必要もなければ、あまり考えたくない悩みを抱えていた。
初めては大したことはなかった。
部屋がラベンダーの匂いに支配されていたぐらいで。
仕掛けた本人に聞くと、「ラベンダーには鎮静効果があるんですよ」と笑いながら告げた。
その横でフェルナーが鼻を押さえているのを、彼女はよくみたほうが良い。
次にコーヒーを赤いコップで持ってきた。
理由を聞く必要はなかったが、本人が張り切って説明してくれた。
「いつもインスタントだから。同じインスタントでも、コップの色で味が変わるって知ってましたか」と説明してくれた。
一番酷かったのは部屋の壁をオレンジに塗り替えようとしたことだった。
「体感温度をあげないと寒い時期にはいりますから」と泣き目で告げ、フェルナーが笑いを横でこらえていた。
オーベルシュタインは頭の片隅に「嫌われているらしい」と書き込んだ。
実際ここまでされれば、嫌われていると思うだろう。

「マーティルダ、やり方が間違っているんだ」

やっとフェルナーはそう言った。オーベルシュタインのためにも早く言うべきであった。
「なぜ早くそう言わないのか」とマーティルダは怒ったが、自分の失敗は水には流せない。
そして怒りは何も生まない。
マーティルダは仕方なく、また大人しく書類にふけるとした。
オーベルシュタインは彼女が書類に飽きたから騒がしかったのだと考え、マーティルダにあるものを買い与えた。

「くれるんですか」
「ここ以外で使うと約束するならだ。そこが一番大事だからな」

マーティルダはかなり高いオカリナを見つめた。
オーベルシュタインは楽譜も渡すと部屋から追い出した。
フェルナーはマーティルダが追い出され、泣いているのではと考えたが、本人は泣いていなかった。
むしろ喜んでいた。

「わー、楽器貰えたわ。使い方わからないけど」

マーティルダはオカリナを手に駆けていった。
この話を知る人、ラインハルトを含めて最初で最後、オーベルシュタインに同情したのだった。

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