9.カサンドラの恋煩い 1/3

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アームストロングと言われたら筋肉を想像する、と答えるカサンドラは、本日で義手を使う身になった。麻酔により痛みは緩和されていたため、激痛という訳ではなかった。そういうが義手がうまく動かない。慣れが必要であることは理解している。試しに義手でペンを握ってみたところ、真っ二つになりインクにまみれた。これがお気に入りのお人形なら、カサンドラはハイテンションにはなれたかもしれない。「世界屈指の義体使いの心情ね」と叫びながら。
義手にして真っ先に行ったことは、ペンを握り潰したことではなくビッテンフェルトとの口喧嘩だった。義手と顔の傷を掘り返されて怒られたカサンドラは「嫁より先に戦場で死ぬ」、とわざわざビッテンフェルトの地雷を踏みつけた。彼女が怒る姿を楽しみ出したことを、ビッテンフェルトは気づくはずがない。
怒鳴り声を聞かされた彼女は、実は頭では一切聞いておらず、前髪で傷を隠す方法を模索していた。結果、戦場という特殊な環境下で気にすることは間違いであるという結論に辿り着く。

「お腹空いたな」
「お前、聞いてないな!?」
「うーん?チーズは質がいいものが食べたいな〜
あ、やっぱソーセージがいい?」
「お前はまず人の話を聞け。
ソーセージもいいがビールもいいな」

彼女のペースに乗せられるビッテンフェルトに、見ていたラインハルトとキルヒアイスは肩をすくめた。好きに言わせる彼も彼だが、臆せずに自分の居場所を確立した彼女に感服する。これだけ神経が図太いのなら、毒気の強い人でも問題ないだろう。二人は彼女をビッテンフェルトのブレーキ役と思ってみていたが、あくまでオイゲンがブレーキとして最後まで機能した。彼女はいきなりブレーキが壊れて暴走することがあるのだ。しかも、アクセル側に近い位置にいる。
見舞いに来たラインハルトとキルヒアイスに気づいたカサンドラは、敬礼をするが二人の階級がわからない。まずは階級が高い人に敬礼をする。キルヒアイスはいつも下にいたような気がした。

「確か18歳と聞いたが」
「今は先月に19歳なりました。
戸籍を良いように利用するビッテンフェルトのおかげで」
「お前、中将にたいして何を言って」
「まあ、よい。そこまで言えるから今ここにいるのだろう」

これぐらいなら怒られないと計算した上での発言である。本来ならいるはずのない小娘に、ここまで言わせるラインハルトもおかしなものだが、自分自身のことになると途端に疎くなる。
ここで二人の関係は線を引かれた。良き方か悪い方か。知るものは未来だけだ。
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