44.食文化 主に生魚編 1/2

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※勝手にワーレンの子供の名前を決めました。
預言者と結婚した覚えはない。キャゼルヌのような言い方をされたが、彼女は気にしなかった。イゼルローン共和政府と銀河帝国との会談が始まり、予想の範囲を越えることなく決まりが出ていく。
予想が当てはまると面白くない。カサンドラは想定外な面白いことが起こることを期待しながら、興味をそそられる食材を見つけた。是非これを夕食にしたい、と。
宇宙に飛び出せずにいるビッテンフェルトは、退屈な書類にまみれていた。宇宙の警備はケスラーが率いているため、彼に出番がまわらなかった。政治家にはなりえない男は、武人とは無縁の会議や書類に舌打ち混じりに向き合わねばならなかった。
彼のもとに妻の大したことではない連絡が入り、帰宅時間まで思いを馳せることになった。
「夕食を大人数で食べたいの、だれか呼んできてね」という余計な台詞がビッテンフェルトには気に入らなかった。2人ではダメなのだろうか。しかし、ビッテンフェルトに家のことで逆らう資格は持っていない。家の絶対王者は妻のカサンドラ。彼女が言うなら従うしかない。
その場に居合わせていたオイゲンを誘ってみた。

「小官は副参謀長であります。まずはグレーブナー参謀長ハルバーシュタット副司令官をお誘いになるのがよろしいかと」
「あいつと仲が良かっただろう、おまえは」
「そういったことは形だけでも形式を整えておくものです」

形式自体が形でないか。ビッテンフェルトは仕方がなく誘うべき相手を探しに出掛けた。
こうして揃ったのがミュラーとワーレン、その息子だった。カサンドラは当然ワーレンの息子の存在はしている。ただ、原作でその名前は明かされていない。確か難産で母を亡くし、父は戦場に赴き、それほど両親に会えていないはずだ。このような場所に来てよかったのだろうか。ビッテンフェルトが無理を強いたのかとカサンドラは一瞬疑った。

「ビッテンフェルトが息子も連れてこいと煩かったので、ご迷惑ではなかったかな」
「いいえ。名前を教えてくれるかしら」
「エルガーと言います」

「いい子ね」と言い、リビングに案内する。
そこにあったのは酢飯と生魚と焼き海苔。いや、刺身である。手巻き寿司の準備がされてあったのだ。
ドイツには生魚を食べる習慣はない。帝国においてもそうであるが、フェザーンや同盟はそうでもない。色んな文化が混在していることが明白なこの二国では、食文化は多様であった。元帥と呼ばれるようになった三人は生魚に困り果てたが、若い息子と日本人は気にせずに食事を開始する。

「トゥーンフィッシュか(まぐろ)」
「生で食べる機会は滅多になかったからな」
「おい、これは食っていいのか」
「わざわざプロに切らせてますから、残さないでくださいね」

そのあとに「いくらだったと思っているんですか」と付け加えられたような気がした。
エルガーにカサンドラが手巻き寿司を教えているのを見ながら、三人は手本にして食べすすめるしかなかった。
美味しくないはずがない。その辺のスーパーマーケットで買ってきたような刺身でない。プロに見極めさせ切らせた刺身なのだ。味は保証されている。初めて食べるものが、美味しくないものでは嫌いになってしまうケースが多い。いくら金がかかろうと多少は良いものをあげることが、好き嫌いを減らす手段なのだ。
カサンドラは、自分の手巻き寿司を食べながらちゃんと子供の面倒も見ていた。

「うんうん、上手に巻けるじゃない。醤油どうする?良いだし醤油があるのよ」
「夫人よ、すまないが減塩醤油はあるかな」

言い出したのはワーレンだった。

「卿はダイエット中か!!」
「いや、今までに比べて頭を悩ませる機会が減ったのでね、太らないようにしているのだよ」
「おれは逆に悩む機会が増えたがな」
「ビッテンフェルト提督には書類の山は似合いませんから」

エビをほぼ独り占めしていた妻の方は旦那に、見習ってほしいと思いつつ減塩醤油を持ってきた。
ふだん皿に用意させたものを食べているのとは違い、何らかの会話が必ず発生する。あれ取って、それよこせ、などというものだ。こういう場面ではテレビなどつける必要がない。静まることはそうそうないのだから。
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