43.帰るべき場所 1/2

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想定通り、政治の中心はフェザーンになっていった。イゼルローン共和政府と専制政治の提督たちとの話し合いの場。これをのちに議会とよぶのだろうか。日本と同じように皇帝ではなく天皇になる日も遠くはないのだろう。
何が変わったかと言えば大きく変わったことはやはり戦争がないことだろう。誰も傷つかない。血を流さない。争わない。これほど素晴らしいことがこのくだらない戦争の間起きなかったのだから。おかげでハイネセンの技術者たちが安心して職に戻り、治安が安定し始めてきたそうだ。
問題は政治統制と軍の存在理由だろう。政治はこれからの話し合いで決まっていくが、軍のあり方は丁重も扱わなければならない問題だ。軍は必要なのか。軍人だった物たちがどのように手に職を得ていくのか。彼等のメンタルケアはどうするのか。軍人として生きてきたものが平和な空間でそもそも生きれるのだろうか。政治以上に軍の存在が一番重要視されることだろう。いずれは徐々に解体されていくはずだ。できることならミッターマイヤーが生きているうちに憲兵程度になればいいのだが。
カサンドラの生活に直結した変化は、ビッテンフェルトが定期的に帰宅するようになったことだろう。そのため、食事を作らなければならない。エヴァに習った料理を必死に再現するために、神経を使うようになった。それでも10回に1回は大失敗をする。
そして、もうひとつ。定期的にリナが来るようになった。フェザーンが政治の中心部になる、その予想をきいていたリナが、フェザーンに引っ越したのだ。
「共和政府の自治権はここにはない」というと、「戦争で細かい自治に関してまだ決まってないでしょ」と笑って言い返された。のちに、リナはイゼルローン共和政府議員の秘書として、フェザーンに住み着くことになる。
なにもかもがおおきく変わった。ここからはカサンドラも知らない物語だ。
デパートで買ってきた蟹を眺めていると、玄関を誰かがノックした。リナがやって来た。蟹鍋をしようと用意していたカサンドラは、訪問者に不愉快そうな顔を向けて椅子に座らせた。

「機嫌悪いみたい。どうしたの」
「さっき知人が死んだ知らせがあってね。ついでに釘を刺された。」
「釘を刺された?」
「私のこと、嗅ぎ回りたい奴がいるのよ」

カサンドラは紅茶を出しつつ、そう言うとリナのよくわからない反応に首を捻った。何を表現したいのか全く理解できなかった。

「なんで、そんなことになってるの?」
「なんでって、私、この辺でぶっ倒れてて帝国公用語が話せなかったから捨て子扱いだったのよ。だから変に勘繰る奴等がいたのよ、ロイエンタールとか」
「ぶっ倒れてて?公用語が話せなくて?よく生きていけたわね」

やはりカサンドラは首を捻った。このリアクションは、明らかにこの世界に来たときの状況に大きな違いがあったと思わせた。似たような状況なら「私もそんなことあったな」ぐらい言いそうなものだ。

「私、目が覚めたらいきなりキャゼルヌから『君の新しい保護者のことなんだが』とか説明されてびっくりだったよ。鞄も制服もそのまんまでさ」

カサンドラは蟹の殻にハサミを入れながら聴いていたが、途中で気になったことがあり顔をあげた。リナは今、「荷物はそのままだった」と言っていたのである。その可能性を考えたことがなかった。ビッテンフェルトが今まで言わなかったから、この身一つで来たものだと思い込んでいた。

「荷物があった?」
「うん、当時の学生証そのまんまあったし。これが唯一自分の正体を証明する品だと思って、超大切にしてたんだ」
「ロイエンタールがまさか」

目を見開いた様子をみて、リナは首を傾げた。そしてカサンドラは蟹を途中で放置して家を出ていってしまった。自分勝手な行動に腹を立てたリナは、愛犬アルテマに愚痴を言ってからその場を去っていた。

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