25.小規模な家出 2/3

bookmark
リヒテンラーデ公の逮捕は士官の仕事であり、下士官は帰宅早々に休暇である。ビッテンフェルトの従卒も兼ねていたカサンドラは、あの猪といても良かったのだが、体調不良を理由にして帰宅した。
こうして、ビッテンフェルトはあの一件を、はじめて耳にすることになる。ディルクセンを理不尽に怒鳴り付けたが、同時に自身の失敗を悔やんだ。安定を得るために必要な、最低限ゆとりを与え忘れていたことを。彼女は私情より仕事を優先すると分かっていながら。
彼女の方は帰宅してすぐに、脱水症を起こさないようにするため、冷蔵庫の食べれそうなものを、水で流すように胃袋にいれた。
多少カサンドラに遅れて帰宅したビッテンフェルトは、自分に報告しなかったことを咎めようとした。「なんで?」「どうして?」は、今の不安定な精神状態に、石を投げつけるようなもの。爆破するとまでは言わないが、適切な判断力を捨て去る結果にはなった。

「そんなところだけ保護者面ですか」
「心配、というやつだろう」
「は?心配ね。あなたは私に保護者として良い顔をしたい、あくまでそこでしょ」

ほぼないに等しいが、曲がりなりにも女として、ヒステリーな面を持ち合わせている。自分の発言が現実とは違うと理解はしていたが、自身の制御を失っていた。主人の帰宅を自動餌やり機の前で待っていた愛犬は、空気を読んで見ていただけだった。
騒ぎ立てる彼女が、ビッテンフェルトに手鏡を投げつける。こうなると爆破寸前はビッテンフェルトの方だ。力任せに掴みかかればカサンドラに勝ち目はない。まっすぐにやって来たビッテンフェルトの右横をすり抜けたカサンドラは、官舎を出て行ってしまった。
喧嘩慣れしていた為に白兵戦が得意なカサンドラだが、それ以外は面白いぐらい不器用である。全力疾走すればビッテンフェルトが速攻で捕まえられた。しかし、愛犬アルテマに吠えられたビッテンフェルトは、犬によって冷静にさせられてしまった。結果、彼女に逃げる隙を与えることになる。
[戻る]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -