24.要塞は墓場 3/3

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この先は誰の失敗だったのだろう。
連行中の貴族を見張らなかった、少なからず監視が足りなかったことにある。連行されていた貴族の一人が急に狂ったように笑い出した。
フェルナー准将はすぐには気づかなかった。

「我々は屈しないぞ、ラインハルト・フォン・ローエングラム!!」
「自爆する気か!!」

貴族は死ぬ気でも、こちらは貴族に付き合って死ぬ気はない。他者の道ずれにする必要とする法があってはならない。
カサンドラは、フェルナー准将を右腕一つで引かせた。止めるには間に合わない。ならば、処理を指揮できるフェルナー准将には無事でいてもらわなければ困る。カサンドラは義手で頭を咄嗟に守った。頭を守ることが、生存率を大きく左右すると知っている。
フェルナーの方はカサンドラに守られてやる義理はなく、彼女に覆い被さった。
しかし、爆破の音がしたわりには、辺りは変に静かだ。血や臓器が飛び散る量が多い予想より少ない。
准将の脇の間からカサンドラは、事態を把握する。一瞬、友人とキルヒアイスが被って見えたが、意識的なものであり事実を映したわけではない。結果がそうであっただけで。
エラ伍長がなぜその場にいたのか、考える余裕はなかった。爆弾の威力を自分の体で抑え込んだ彼女は、キルヒアイスがラインハルトを庇ったように、カサンドラを庇った形になった。

「エラ!?」

生きれるはずがない。頭では分かっていたが、感情は追い付いていなかった。
フェルナーを振り払い、エラの元に駆け寄った。貴族もエラも、内臓が表現することを躊躇うほど、無惨な状態であった。
即死した方がマシだった状態で、彼女はカサンドラに手を伸ばした。

「ごめんね」

これはエラが、カサンドラが自分を別の友人の代わりにしよう、と気づいていたために出た台詞である。
キルヒアイスの時とは違い、より早くブラスターで防げた事態である。しかし、戦意喪失した貴族を誤って撃つことを恐れたエラは、自分を使うことで防いだわけだ。
カサンドラには謝られた理由が分からなかった。

「なんで謝るの!?」
「不器用だから・・・喧嘩は駄目よ、あの人・・・・・・」
「はぁ!?聞こえない。バカね、大人は汚くても理想のために生き延びる生き物よ。あんたは理想のために、高貴な死を遂げる未成熟なガキよ!!」

エラは聞こえていたのだろうか。聞こえていたとしても、今みたいに微笑むであろう。カサンドラらしい気遣いを気づけない友人ではないから。
フェルナーにはこの光景がどう見えただろう。
思考する暇はなかった。カサンドラは、エラから自爆した貴族の死体に目を向ける。理性を棄てた彼女は、怒りと哀しみを制御できず、当たり散らす以外に道がなかった。非人道的に。
圧迫するような威圧感に、その場にいた者の殆どが、止めに向かうことが出来なかった。腹の中に爆弾を仕込んでいた貴族の上半身の死体に、カサンドラは馬乗りになり殴りかかる。動けたのはフェルナー、一人だった。降り下ろす右手首を掴んで背中に回した。

「離してよ、今更人道主義の厚化粧をしても意味がないじゃない!!所詮は私たちは殺人犯でしかない。」

原作を読んだ者なら、カサンドラが止められたことで理性を戻しかけたことに気づいただろう。

「じゃあ続けるか。厚化粧を外したらどうなるのか、見物だからな」

フェルナーの冷笑と冷静な口調は、彼女の心に冷水を浴びせるには十分だった。怒りと哀しみという火が一気に鎮火されたカサンドラは、力を抜いた。フェルナーも手首を掴むことを止めた。
次に彼女が自分の下士官に下した命令は、友人としては非道徳的で、軍人としては正しかった。一介の下士官の遺体は持ち帰れない。燃やしてしまうしかないのだ。カサンドラは分かっていた、人としての批判を浴びることは。しかし、そうでもしない限り、メリハリがつけられそうになかったことも事実。
彼女の後ろ姿を見たフェルナーは、若干興味が沸いた。オーベルシュタインは理論家だ。そして、話し方からカサンドラも理論家であることはわかった。しかし、彼女は冷徹ではなかった。この辺りはロイエンタールよりフェルナーの方が良く見ていた。マキャヴェリズムさえ備えれば、オーベルシュタインにさえなりうる。道を踏み外さないだろうか。
彼女は最終的に自分の理想の為に行動するのだが、この段階で予想できる要素はなかったようだ。
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