23.セーフルーム 4/4

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この二人は、微妙な距離を保ったまま、話そうともしなかった。いや、話す内容がなかった。
漁色家というだけで、女としてロイエンタールは信用にならない。出生不明というだけで、帝国軍人としてカサンドラは信用にならない。互いに妙な点では信用していなかった。
思ったことがあり、ロイエンタールはカサンドラの近くに座る。冷ややかに見つめるカサンドラを無視し、彼女の手に触れた。
ロイエンタールは慌てて半身ほど引いた。拳が顔のすれすれを通過。油断していれば、今ごろ顔が腫れていたことだろう。
動揺したカサンドラは、謝るより先に立ち上がり、ロイエンタールを見下ろした。見下ろしされることは好きではない。

「何するんですか!?」
「ビッテンフェルトならいいのか」
「な、何がしたいんですか、一体」

理解できません、と言いながら、カサンドラは再び座った。
緊張状態というなかで、ロイエンタールは彼女に試したかった。敵か味方か。同盟やフェザーンのスパイなら、男性に近寄られるぐらいは慣れているだろう。昔も今も男女関係の利用は変わらないのだから。
予想外に拒絶されたロイエンタールは、ビッテンフェルトの何がいい、と無駄な嫉妬をする。カサンドラには興味はないが、ビッテンフェルトに負けたことは気に入らない。
とりあえず、同盟やフェザーンのスパイである可能性は低いとみていいだろう。

「ビッテンフェルト提督、ライトを忘れないように」
「はっ」

キルヒアイスとビッテンフェルトだ。
技術者が設計図に違和感を覚え、このセーフルームの周囲を調べていたらしい。そして、壁に穴を開けて大胆に侵入したようだ。
寝ていたカサンドラは、顔面にライトを当てられ、顔を押さえる。暗闇からいきなり明るくなったため、目に刺激的だった。
ビッテンフェルトはカサンドラを見てから、横にいたロイエンタールの顔面にライトを向けた。やはりロイエンタールも目に刺激的だったので、うつむいた。

「ビッテンフェルト、眩しいよりも痛い。」
「ご無事で何よりです。一応、医務室までお連れいたします。」
「いや、キルヒアイス提督、私は問題ない。こちらの曹長を、彼女の方が長いこといたらしい」

ビッテンフェルトが、カサンドラを躊躇いなく抱っこしていた。
呆れた。ロイエンタールは、本当に呆れた。悪いのはビッテンフェルトだ。彼女が恋人であることよりも、被保護者の身であることを優先している。他人の恋愛も、自分の恋愛も興味はないが、見ていると腹立たしかった。
メイクをしていない女性らしくない女性。ビッテンフェルトの好みなのはわかるが、彼女は恋愛では子供ではないぞ。

「ロイエンタールに何もされなかったか?」
「それよりもお腹が空いて・・・・・・」
「卿の部下は、柔らかい手をしているようだな」
「・・・・・・ロイエンタール、触ったのか。カサンドラ、触られたのか!」

ビッテンフェルトがロイエンタールの悪戯に流され、怒鳴る声を聞きながら、彼は思考を走らせた。
彼女は才がある。確かに不器用ではあるが、白兵戦は並み以上、事務処理は一般並み。何より、相手の役割を理解し、仕事を与え、士気の上昇や効率を高められる。飴と鞭の使い方やカリスマ性が高いのだ。上にあがる才能があるにも関わらず、今はその欲がない。運よく彼女は今、大切なものを欲している。逆にいえば、ビッテンフェルトは彼女の“大切なもの”になりきれていない。
ロイエンタールは首を横に振った。柄にもないことを心配しても意味はない。今はキルヒアイス提督が必死に笑いを堪えている光景にでも目を向けよう。そちらの方が面白いから。
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