20.珍しい訪問者 3/4

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「ビッテンフェルトのやつに似つかず良くできた娘さんだ」

ワーレンがいうのに対し、「ビッテンフェルト提督が尻に敷かれている」とミュラーは言いかけて止めた。尻に敷かれた本人が上機嫌にワインを持ってきたのが見えたのだ。どうやらワーレンの発言が聞こえていたらしい。言わなくてよかったとミュラーは安堵した。

「そうだろ、良くできた奴だと思わんか。ちょっと口が悪くて暴力的・・・痛い、皮膚をつまむな!!今からジュースでも買ってきてやろうと思ったが、知るか自分で行け!!」
「別に自分で行けますし、水でも充分ですから。」
「お前は可愛げがないな、まったく。ありすぎても困るが。ほら、金はやるから買ってこい」

それぐらい行ってきてやれ、と出ようとした言葉をワーレンは引っ込めた。「この二人、まさかのろけてるんじゃないだろうな」などと感じたのである。あながち間違いでないが、本人たちは気づいていない。
しかし、悩み所だった。ワーレンとミュラーには二人は保護者と被保護者の身にしか見えない。見た目の問題でしかなかったが、それ以外の見方が出来なかった。しかも、本当にビッテンフェルトがジュースを買いに行かせてしまったのだ。ビッテンフェルトのイメージとしては「娘や恋人には甘い」だった。
ビッテンフェルトの方から恋人としての紹介はなかった。カサンドラが“俺の”恋人とは言われたくなかったのだ。まるで自分自身が他人の私物化されたような気がしてしまうという。それにこの二人が、ロイエンタールやミッターマイヤーから恋人の話は聞いている、と思い込んでいた。カサンドラは訪問した時点での両提督の反応から察していたようだが、敢えて言う必要は感じなかった。

「それにしても小官には信じられません。どうやれば、あんな可愛らしい少女を拾うんですか」
「俺が知りたい。神など信じる気にはなれんが、あの瞬間ばかりは世の中には役にたたん神がいると思った」
「正直、俺があの少女なら、卿に拾われた事を神に恨むが。しかし、フロイライン・・・・・・」
「メルツァーだ。言いにくいから呼び捨てで構わんぞ」

ビッテンフェルトが決めて良いのかは知らないが、言いにくいことは事実。ワーレンはお言葉に甘えずにちゃんと呼んだ。むしろ、本人が呼ばれ慣れていないため、困惑しそうだが。

「フロイライン・メルツァーに誘拐の疑惑をかけられなかったのか」

これに対し、ビッテンフェルトがあからさまに嫌な顔をした。しなかったと言えば理由に話が飛ぶ。出来る限り彼女の過去には触れさせたくなかった。過去に関わる可能性がある話は排除し、身の保身を図ったのである。ビッテンフェルトはそういう性格ではないが、カサンドラに対して感覚的に守らねばならないと危機感を持っていた。武人としての何かが、そうさせているのだ。
ワーレンはその顔を見て、話を逸らした。嫌なことでも思い出したのだろう。例えば本当に勘違いされて殴られたとか。
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