20.珍しい訪問者 2/4

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小さな軍人に出迎えた珍しい訪問者二人は、彼女を視界に入れるまでに多少の時間を有した。170センチ代にいるミッターマイヤーですら小柄扱いの世界では、150という数値は米粒のようなものだろう。
訪問者二人は場所を間違えたに違いないと思った。それは彼女の存在を噂話では聞いていたが、容姿までは知らされていなかったためである。また、彼らは
「ビッテンフェルトが子供を拾い育てている」
「その子供のため、完全な家族形態に近づけるように恋人を手に入れたらしい」
、という二つの噂を修正するものを手に入れていなかった。
休暇中ということもあり、互いに私服だったせいでカサンドラには遅めな判断だった。

「えっと、フロイライン。ビッテンフェルトの官舎でよろしかったかな」

カサンドラから答えを聞く前に、妙な間を感じていたビッテンフェルトが顔を覗かせた。しつこい勧誘や質の悪い軍人の押し掛けなら、容赦なく罵声を飛ばすのがカサンドラとビッテンフェルトである。
訪問者であるワーレンとミュラーを見てビッテンフェルトは喜んだが、カサンドラは冷蔵庫の中身を気にした。今、お出し出来るようなものはなかったのだ。
料理は壊滅的というほどでないにしても、ビッテンフェルトの方がセンスがあった。頭にある理論と実行していることが若干ずれるカサンドラは、水と油は分離すると分かっていながら混ぜることがしばしばあった。そのたびに目玉焼きをフライパンごと燃やしてしまう。こうして、仕方がなく買ったものを食べるようになった。
訪問者二人はカサンドラの心配を露知らず、ビッテンフェルトが落ち込んでいないか見に来たという。ついでに恋人の噂を確かめに。
招き入れてから、カサンドラは机に書類を置いたままであることを思い出して走り抜けた。
ちょっと不機嫌な顔をした元気な彼女を見たワーレンとミュラーは、噂より若い娘と思った。この世界に来て18歳。今は20歳ほどだが、15.6歳の少女に見えた。日本人として容姿は平凡であるが、男にまみれた軍人からしてみると可愛いらしい。日本人の顔は世界から見て平均して童顔であることを、カサンドラは痛感していた。正直、身長も胸も童顔もコンプレックスになっていたらしい。

「落ち込んでいるかと思ったが元気そうだな。」
「落ち込んでばかりもいられまい。近々、再び一仕事ありそうだからな。どうだ、うちでこのまま一杯やっていくか。カサンドラがいるから外出は無理だが」
「いや、そこまでは」
「食べていかれるなら出前とっていいですか」

カサンドラは書類を寝室に乱雑な状態で置いてから、ビッテンフェルトに向かって言い放った。事情を知らない上に、女性は料理が出来るものという思考が強い二人には遠慮しようとした。しかし、足元にいた犬が威嚇してきたため、一歩遅れた。
アルテマに対してビッテンフェルトが「煩い」と言うと、不審者ではないと思ったようだ。

「卿らが遠慮する必要なのはないぞ。俺もあいつも料理ができんから、どちらにしろ買うしかない。あいつに料理を作らせたら、死体が転がるかもしれん。」

ミュラーはお嬢さんと目が合って慌てて逸らした。ビッテンフェルトに対して怒りの表情を向けている。料理に関して言われたことが腹立たしかったようだ。確かにビッテンフェルトの発言は気遣いに欠ける。

「・・・・・・じゃあ、マルゲリータ、ダブルクロスチーズ、トマトベーコン、あとサイドメニューのサラダとチキン」
「フロイライン、頼みすぎではないか」
「残った際の残飯処理をビッテンフェルト提督がしてくださいます。ビッテンフェルト提督、まだ開けていないワインがありましたよね」

ビッテンフェルトが誕生日にもらった赤ワインを取りに行く。
三人は机を囲って座る。ミュラーとワーレンが隣り合わせ。ミュラーの向かい側はカサンドラが座った。目が合った向かい側同士は、カサンドラに釣られて頭を下げた。これをビッテンフェルトが拾ってきたと言われたら疑いたくなる。自分にも降ってこいと。
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