18.薔薇の本数 5/5

bookmark
これだけの気まずい沈黙があるだろうか。そもそもこんな助言をしたのは誰だろうか。第3者が見ればきっとミッターマイヤーだと思うだろう。
沈黙を破ってのは当然ビッテンフェルトだった。彼が話さなくては進む話題ではない。

「好きだ」
「ん?」

ストレートすぎた言葉に理解するまで時間を要した。
彼女の頭には、ビッテンフェルトに恋愛や恋が出来ることを期待していなかったこと、自分に告白する男性はいないこと、が埋め込まれていた。男性の心理からいくとカサンドラは、堅苦しすぎて躊躇いを感じさせてしまう。それを理解していた彼女は告白されることを考えたことがなかったのだ。予想や心構えから外れると、判断力と頭の回転が鈍る彼女は必死に頭が働いていた。
男女が付き合うまでの期間は出会ってから大体3か月以内。1年過ぎて確率は1割まで落ちる。遊びだろうか。その場合、相手を深くは知りたがらないが、距離は縮めようとするらしい。相手を褒める、スキンシップが多い。
だんだん論点が拗れ始めた。

「お前、疑っているな!?」
「はい」
「俺はそんなに信用ならんか!!」
「いえ、慣れてないだけです。」
「だろうな、俺だって慣れてないぞ。仕方がない。もう一度言うぞ。」

この台詞が彼女の中にあった躊躇いと拗れた論点を吹き飛ばした。

「俺にはお前がどこの誰であろうと関係ない。結婚前提でいいなら受け取ってくれ」

動揺していたカサンドラには言葉を大切にしたいが、今は行動の方がありがたかった。薔薇の花束を受け取ろうとしたが、大きすぎた為か落としてしまった。慌てて持ち上げると、花が顔に当たって非常に邪魔だった。
邪魔な花に耐えながら、彼女は珍しく微笑んだ。

「花瓶に入れても良いですか。全部は無理ですが、数本なら」
「そうか!!」
「だ、抱きつく前に薔薇を花瓶に入れますよ!?折れて悲惨な事態になりますから」

薔薇を愛する人に求婚する際のブームになる予感がしながら、カサンドラは玄関に向かう。部屋の奥でビッテンフェルトが一人で騒がしくしているが、耳に入らなかった。どちらも相当赤い顔をしているに違いない。この薔薇とどちらが赤いだろうか。
おそらく、ビッテンフェルトは気づいていないだろう。薔薇は色以外に本数にも意味がある。彼は50本の薔薇を持ってきた。意味は「偶然の出会い 永遠」。カサンドラは苦笑いを浮かべる。プロポーズと意気込んで108本持って来られても困るが。
カサンドラは長持ちしそうな薔薇4本を選んで玄関先の花瓶に入れた。

この恋が、とある二人の未来と過去を狂わせて“いた”事を。
宇宙、そして彼女らを置き去りにした世界はまだ知らなかった。
[戻る]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -