18.薔薇の本数 3/5

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そんなところで寝るなと教わらなかったのか。ロイエンタールとミッターマイヤーは、異様な光景を前に苦笑いをとばした。
ビッテンフェルトの祝いをしてやろうと、いるであろう食堂に来たら黒色槍騎兵艦隊の先を越されていたことに気づいた。食堂から距離のある場所でも騒ぎ声が届いていた。中の様子ぐらいは見ようと食堂の前まで行くと、カサンドラが体育座りで寝ていたのだ。これはどうしたものか。

「廊下で寝るとは良い度胸だな」
「そうじゃないだろう。疲れて寝るのはいいが起こしてやらんと」
「・・・・・・?」

二人の声に目を覚ましたようだが、寝ぼけている。敬礼まで時間がかかっていた。

「用でしたらお呼びしましょうか」
「いや、いいんだ。部下の中に俺たちが入るわけにはいかん。場の雰囲気は悪くなる。卿こそいいのか、入らなくて」
「あいにく楽しみ方を知らないので」

そう答えてから誤りに気づいた。お二方は何やら誤解したようだ。不運な子と思われるのは良いが、同情の眼差しは好きではない。
ミッターマイヤーは今度会ったらビッテンフェルトに「カサンドラが寂しがっていたぞ、構ってやらんのか」と言おうと決めた。やはり誤解している。

「そういえば卿は捨て子と聞いたが、どこの出身か覚えていないのか」

ロイエンタールの気を使わない質問にミッターマイヤーは驚きながら怒った。人の傷をえぐったり、塩を塗ったりはしてはいけない、と言いたい様子。カサンドラは訊かれた事には気にも止めなかった。こんなことのあろうかと、あらかじめ返答を考えていた質問だったからだ。

「あのときのは帝国公用語が読めませんでしたから、文字の書いてある紙など理解できない記号でした。そのせいかあまり覚えていないんです。」
「そうか、失礼な事を訊いた。もし判れば両親を探す手伝いぐらい出来たんだがな。あのビッテンフェルトではその辺り、当てにはならないだろうからな。」
「なんだ、そういうことか。何かと思った。そうだ、悪いがビッテンフェルトに渡してくれないか。赤ワインだ。二人で飲むといい」

お二方からのビッテンフェルト宛誕生日プレゼントを受け取り、感謝の意を示した。
ロイエンタールの背中を見ながら溜め息が出た。あの質問で眠気が吹っ飛んでいた。それどころは釘を刺された事に気づく。「卿がビッテンフェルト、ミッターマイヤーに何かしたら、俺は自分の手を躊躇いなく汚す」と。この日本人顔が危険を呼ばなければ良いと思ったのだが、予想通りロイエンタールに目をつけられるとは運がない。
しかし、脅威には見ていなかった。自分の存在も脅威ではないと思っていたからだ。「歴史を変えてはいけない」とよく言うが、実際は「歴史は変えられない」と思っている。歴史は決められた滝のようなもので、彼女は途中にあるはずのない小さな岩にすぎない。水しぶきや波紋を起こす程度の変化しか起きない。
しかし、あくまでこれは彼女の持論にすぎない。
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