13.恋に性別は? 2/3

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餌を買う店は決めている。宿舎から離れすぎない普通の店だ。
最近、ビッテンフェルトがついてくることが鬱陶しくてならなかった。暑苦しい上にむさ苦しい。店がビッテンフェルトの存在ひとつでパンクしそうなほどに。
彼女はいつものドックフードを買い、店を出るとやはり女性がいた。
市民階級だろう。普通の服だが、ファッションセンスはあるようだ。個人的にロングスカートが好きでだったので、なんとなく足元を眺めてみた。
そして、やっていることが中年のおじさんと自分に戒めた。

「今日は上官はいらっしゃらないの?」
「はい、御用でしたら」
「なら、散歩してくださらない?」

予想外の返答に言葉が出なかった。肩を落として立ち去るか、来るように頼むか、と思っていた期待を裏切られたようだ。
カサンドラは動揺を隠した。女性が相手だとポーカーフェイスがあっさり崩れてしまう。別に構わないのだが、弱みを握られた気がして不快だ。
散歩して殺されはしないだろう。あのときのように左腕がない訳ではない。射撃の腕も上がっている。
短気ではあるが、ポーカーフェイスも猫を被ることも得意だった。カサンドラは日頃ならしないスマイルで返答する、YASと。
言ったのは良い。しかし、女性が行きたがる場所はわからない。可愛いもの、甘いものは嫌いだった。ネズミの国には食べにいくようなもの。土産を家族が買うなか、外にいる親父たちに紛れて座るような女だった。女性らしさを求められては困るし、理解したいとすら思わない。

「気持ち悪いと思わずに聞いてくださる?」
「え、えぇ・・・・・・どうしました」

本題が何であろうと、気持ち悪がられる話は遠慮したいものだ。

「あなたをあの駅で見て以来、忘れられなくて・・・・・・女同士で気持ち悪いでしょう?」
「い、いえそんな」

予想外すぎて荷物を落としそうになったカサンドラは、次はあからさまに困った顔をした。
女性が嫌いではない。むしろ、「長いスカートからチラリと見える足首がメニアック!!」なんて言う神経はしている。これはそういう問題ではないのだ。男だろうと女だろうと、恋愛の対象として見ることが出来ない人を恋人にはしたくはない。しかも軍人という職についていればなおさらだ。自分が死んで悲しむ人を無駄に増やしたくない。
もしかしすると、女性を振る行為を正当化したいだけかもしれない。
言葉を選ぼうか。カサンドラは首を振った。女だからわかる。このような場面では本音を聞きたいものだ。傷つけない言葉を選びながら、本音を言う難しい選択に出た。

「ありがたいが、その申し出、断らせていただく」
「なんで?」
「恋愛に性別の概念は不要だと思う。男同士だろうと女同士だろうと愛があるなら付き合えばいい。でも私はあなたを良く知らない。そういうことです。あなたも恋愛対象に見ることが出来ない人からの誘いは断るでしょう?それに軍人として恋人を待たせるのは性に合わない。またされるのはいいんだが。」
「そう、でしょうね。嫉妬深そうですから」
「よく見ていらっしゃる。」

確かに嫉妬深いことは自覚している。浮気や不倫をされたら何をしでかすか自分でさえ分からない。知っているのだ、愛したら怖いぐらい一途になれることを。そして、好きな相手に素直になれないことも。中学時代の付き合いたくない女子ランキングには毎度トップを飾っていた。喧嘩が強かった事も少なからず原因に入りそうだ。
女性が頭を下げ、こちらは感謝を言いながら見送った。この女性には聞こえていた。カサンドラが消え入りそうな声で、「愛されてみたい方がいて」と言ったことを。
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