12.命の重さ 3/3

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駅周辺の安全を確認した後、カサンドラは再び資料を確認していた。
日本では自爆テロなどあり得ない。理由はテロをしようなどという行動力がないからだ。極端な話ではあるが、日本人は政治に無関心であった。関心があればテロの一つ二つは数年にありそうなものだ。自身が巻き込まれない限り重い腰を上げないらしい。その名残が彼女自身の行動力に足を引っ張っているのだから。
死体の写真が目に入り、あからさまな顔をした。死体はよくない。しかもこの写真の死体は原型を留めていない。肉片をこんな形で見ようとは思ってもみなかった。それにしても何故爆弾の破片らしきものが見つからない。

「憲兵隊クリストフ准将であります。事態の報告をお願い願いたい」

知らない奴だ。この時ケスラーは何をしているか覚えてはいない。
説明は得意ではないが、使える丁寧語のすべてを投与した。黒色槍騎兵艦隊相手なら、下手な帝国公用語でも笑われるだけで済む。知らないやつなら全力を注がねばなるまい。
死体の写真を見せて説明を始める。やはり死体はよくない。カサンドラはあまり死体を見ないようにするが、そもそも原型がないので意味がないのだ。カサンドラは説明しながら目についたものが気になって、中断した。モブキャラ准将が話しかけるが耳に入らない。

「まさか・・・・・・」

爆弾を所持していると騒ぎ立てた犯人は、幼年学校に通うぐらいの年頃であろう少年だった。
接近して押さえつけようと考えたが、爆弾がどんなタイプなのか分からない。しかも、列車が駅のホームに中途半端に入っている。爆破された場合、ビッテンフェルトと少年だけの被害ではすまない。短気を起こして押さえ込む選択肢は最後。
彼はブラスターを向けたままゆっくり近寄る。問題は、列車にいる乗客が射殺することを煽ること。貴族のような短気が乗り込んでいれば、さらに面倒なことになる。憲兵が来るまで、できる限り時間を稼がねばならない。ビッテンフェルトが苦手とする分野だ。

「自爆なんかやめろ。命は無駄に使うものではない!!」
「あ・・・あ・・・・・・」

緊張か恐怖か、まともに話ができそうにない。長期戦に持ち込まれたらビッテンフェルトの理性が切れそうだ。できることなら少年を殺さずに捕まえたい。そのためにも理性が切れないように努力を努めていた。
微かに足音が聞き取れた。憲兵が駅前に来たのだろう。ビッテンフェルトは早くしてもらいたいと、小さく舌打ちをした。ここに来るまでさらに時間を要するだろう。
ビッテンフェルトは暇を潰すために説得を始める。自爆をするな、命を大切に、と何度言ったか。いい加減気の聞いた台詞が吐きたいものだ。
何度目かのつまらない台詞を吐いた瞬間、ビッテンフェルトの横にブラスターの閃光が走った。頭を貫かれた閃光はそのまま血を流している。ほぼ即死と見てよい。
ビッテンフェルトの後ろには苦い顔をしたカサンドラが立っていた。

「なぜ殺した!!」

ビッテンフェルトを無視し彼女は、あとから事態を理解できずにやって来た憲兵に怒鳴った。

「救急車!!腹に爆弾を抱えているはずだ。完全隔離しろ」

写真を見た彼女は内蔵の破裂の仕方を見て疑問を感じた。外部に爆弾を抱えた状態と内部に爆弾を抱えた状態。その専門家ではないが、生物をかじり理論的に考えれば、違和感を覚える程度なもの。首を切れば心臓の動きに合わせて血が舞うように。
爆弾が内部にあると見てよいのではないか。その場合、押さえられずに足踏みしていれば被害が拡大するだろう。
それは建前。彼女は自分の利益のために阻止をした。

「殺さなくても手はあっただろ!!」
「そんなものを探していたら貴方が死んでましたよ!?私も初めて死なせたのが自分より年下の少年なんて嫌でした。でも貴方が死んだら・・・・・・貴方が死んだら、仕えたい上官がいなくなるんです。
そういう意味で私は自分のために行動しました。その点を罰せられるなら慎んでお受けいたします」

カサンドラとビッテンフェルトはしばらく睨み合った。野獣のような彼の睨みを怯むことなく受けるのは、出会ってから変わっていない。
引かない彼女を見て、引いたのはビッテンフェルトだった。自分を守りたくて行動を起こした彼女を責めることは出来なかった。結果はどうであれ救われたことに変わりはない。覆しようがない事態に、責めても無意味なぐらいは理解している。
彼は気づいていた。自分の横に彼女を置きたいと思う一方で、人殺しをさせたくないと思っている。後者の感情ははじめはなかった。そう思うことを計算にすら入れていなかった。だからこそ戸惑っている。彼女はどうすれば自分の意思を伝えてくれるだろうか、と。

「お腹、空いたか。普通、こんなあとに食欲は沸かんか」
「焼肉が食べたいです。」
「お前、正気か!?」
「女性の方が神経が図太いことをビッテンフェルト大佐は知らないようで。部位でしたらカルビとレバーが好きです。ちょっと良いものを食べさせてください」
「このあとにレバー・・・だと・・・・・・!?」

カサンドラはビッテンフェルトに背を向けて歩き出した。
無意味とわかっていて出てきた疑問の、答えがわからなかった。友人の理菜が同盟にいて、帝国軍と対峙することがあったら、自分はどちらを取るのだろう。態度にも口にはしなかったが、トリップする前は命をかけて友人を守るつもりでいた。ホームから落ちる理菜を助けようとしたのは、夏目としてのしたかったこと。それが不器用な自分が友情を示す方法と信じていた。しかし、カサンドラとして自分は守りたい人がいる。そのとき、自分は自分でありながらどちらかを切り捨てることになる。
もしかすると切り捨てるのは、自分ではなく他人かもしれない。
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