12.命の重さ 2/3

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オーディンで気に入っていたレストランが被害に遭うと腹立たしいものだ。燃えた建物を眺めながらそう思った。
国務省のパソコンをハッキングして送りつけられた犯行予告は、オーディン内で自爆テロを起こすという内容のもの。信用に値しないと判断したリヒテンラーデ候であったが、実際に行われると対処しないわけには行かなくなった。憲兵を動かしてみるものの、うまく防ぐこと叶わず、頼れそうな人物を頼るしかないところに来たらしい。頼る相手を間違えたことは言うまでもない。

「なんだって自爆なんかするんだ。楽しいことが他にあるだろ」
「行為自体が意味を為すタイプのテロですね」
「意味がわからん」
「死ぬことで汚名であろうと生きた証になる、ということです。予告を信じるならあと二件とのことですが。防ぐべきテロは一件になりそうです」

カサンドラは地上車から資料を出して覗く。
反国家主義主導の自爆テロと見られているようだ。爆破された店や施設が裏で反国家主義が集まる場所だったためだろう。誰かの差し金で取り締まれなかったということか。憲兵を大きく動かせない理由はその辺りにありそうだ。もしビッテンフェルトがその理由に気づき、ばらさないとは限らないだろう。彼を甘く見ているということか。
気づかれないように舌打ちをした彼女。不快だ。ビッテンフェルトの質は好まない。騒がしい、突進する、怒鳴る。理由は自分がこの二つを持ち合わせているためだ。しかし、人柄は悪くない。使われるような人にはしたくないと思っている。

「なぜあと一件に?」
「事件が起きた間隔の話です。予告から28分、二件めは1時02分後、三件めはさらに時間があいて3時25分。最後の自爆からすでに10時間以上経過しています。恐らく、次の自爆はもう起きます。しかし、その自爆から最後のテロまでは相当時間がかかるでしょう。」
「意味がわからん」
「それ以外の台詞がないんですか。
自爆は覚悟を決めてからやるんですよ。恐らくまともな判断力が欠落しているはずです。必要なのは自爆の勇気だけ。それなら24時以内には用意できるだろうし」

ここまで説明して理解されるなどとは考えていない。それどころか防げない一件があることを不快に感じられてしまうかもしれない。間に合わないことは事実。人の命がかかっている事は小より大を取らねばならない。そして戦争では友人より事柄を。
反国家主義の場を10時間以内に洗いざらい調べ、テロが起きそうな場所を見つけねばならない。

「ふん。俺にはさっぱりだな。お前はどうするつもりだ。」
「私ですか。そういえば始めは私を貴様と呼んでいたような。それより、最後なんですから派手に交通機関でも潰してしまえば良いのでは?」
「お前もお前で小官とは言わんのだな。まあしかし、交通機関を潰すか。やはりくだらん!!」

自爆は確かにくだらない。しかし、判断力が欠如した集団に求めるべきではない。反国家主義がよいとは口にできないが、それ以上なものだ。
地上車の助手席に座り、気づいたら眠っていた。仕事を放棄して上官の横で寝るとは、どうやらよからぬ癖がついているようだ。その間に地下鉄の駅を回っていたらしい。ビッテンフェルトの行動力には感服するところ。カサンドラに行動する勇気は足りていない。

「寝てました」
「見ればわかる」
「どれだけ寝てましたか」
「五時間だな。お前の言った通りに防ぐテロは一件になった。」
「ごめんなさい」
「何について貴様は謝っている!!お前が機械なら寝てるのはサボりだがな。それより今は空腹なのではないか」

寝ぼけているため頭が回らずにいた。ビッテンフェルトの顔がうまく見えない。目立つ髪と顔の色がわかるぐらいだ。視力の問題だろうか。
頭を振り、前を向くと何やら騒がしく人混みが出来ていた。ビッテンフェルトは不愉快そうにハンドルを殴った。罪はそれではないはずだ。
二人は地上車から降り、騒ぎの内容を確認しに向かった。悲鳴が紛れた市民の声に嫌な予感がする。その市民の一人がビッテンフェルトに泣きついた。カサンドラは冷静に美女を眺めることにした。

「軍人さんなら助けてちょうだい。地下鉄の駅に爆弾・・・・・・爆弾を持っていると騒ぎながら」
「カサンドラ、お前はそこにいろよ」

美女を押し付け走り抜けるビッテンフェルトに、カサンドラはため息をついた。女性関係に関してはフラグクラッシャーかもしれない。あれだけの才があれば女性は掴み放題ではないか。ミッターマイヤーが一人の女性を選んだように、ビッテンフェルトにもそうしてもらいたいとも思う。
地下鉄の駅前に混乱があるままでは面倒だ。カサンドラは憲兵より先にこの場を制圧せねばならない。ビッテンフェルトとカサンドラは面倒なコンビであり、実力もあると知らしめるために。また市民を遠ざけねば、いざというときに被害が拡大してしまう。
口が達者という自身の汚点が、市民の安全のために適切な嘘をつける利点となるとは思わなかったが。

「あ、あの」
「先ほどの・・・・・・ここは危ないですよ。」
「私の母が列車に・・・・・・」
「きっと大丈夫ですよ。もしものことがあったらいけません。安全な場所まで避難をなさってください」

今までしなかった言葉使いが自分自身に苦笑いを招いた。同時に別の違和感を感じた。この女性は何を狙っているのだろうか。
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