10.ビッテンフェルトの恋煩い 3/3

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彼女が歴史に名を残すことなく消えていった理由は、彼女の存在を否定するものが多数いたためである。彼女の存在を表す生き証人が存在するものの、書類では存在を示すものが欠落していたのだ。後世の歴史家には示す証拠が残されていなかったのだ。元帥と呼ばれるようになるビッテンフェルトは、後にこう語っている。
「はじめからいなかったのかもしれない」
生き証人を生み出した一人でありながら、こんな発言をした彼を生き証人は何も言わなかった。彼女もそう言わざるを得ないと感じていたのだ。
生き証人を生み出すことになる彼は、あの一晩のことにふて腐れていた。嫌われることには問題がないと思っていたのだが、あそこまで言われたことが心に来ている。

「どうやったら好かれるのだ」
「・・・・・・ビッテンフェルト大佐、それはカサンドラのことですか」
「それ以外に誰がいる?」
「恋愛に身を投じるとは思いませんでした。しかし、彼女に結婚を申し込むのは手続きが面倒です。また、結婚したら副官には出来ませんね。」
「は!?」
「えっ?」

恋愛などと言う名を聞いたビッテンフェルトは首を傾げている。今までを思い返してからオイゲンに驚いた顔を向けたのだが、驚いた顔をしたいのはオイゲンの方である。
拾った時は見た目子どもではあったが、この数ヵ月で一気に成長を遂げた。身長は変わらず150と小柄ではある。しかし、風格はビッテンフェルトに対して右に倣え、と言わんばかりに身長より大きなものであった。軍人であるがゆえ、化粧をしたり髪を伸ばしたりはないが美人とは言える。本人に言えば鼻で笑われて終わりである事ぐらい知れているが。
髪の毛に対して、ビッテンフェルトは一度異議を唱えたことがある。切るには勿体ないのではないかと。やはり鼻で笑われ、鬘にして売るという冗談を言われていた。冗談が通じなかったビッテンフェルトの機嫌は想像通りだ。
心当たりがない訳ではないビッテンフェルトは、頭を掻いてから頷いた。オイゲンの意見が間違いではないと思えたからだ。
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