7.軍人になる。 4/4

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目を覚ます。こんなときは元の世界に帰れた夢を見るものと思っていたカサンドラは、何もなかったことにつまらないと感じた。
白い天井が視界に入り、独特な匂いが鼻を通る。宿舎より気持ち良いとは言いにくいベッドに寝かされているようだ。良い点は個室ということか。
起き上がりたいがバランスがとれそうにないカサンドラは、まずナースコールを手探りで見つける。これで問題はないだろうか。
医者からの説明を聞いたカサンドラが驚いたことは、ここがイゼルローン要塞内部の病院ではないことだった。彼女は、誰かが首都オーディンに呼び戻したことに衝撃を受けたのだ。当然だが、その誰かは予想がついた。自分としては考えてもいなかったことだ。
珍しくカサンドラは素直に嬉しいと感じた。顔が綻びることに気づいた彼女は、冷静になるとその背後で動いた権力に目を向けた。今後ローエングラム伯となるラインハルト・フォン・ミューゼルか。奇妙な貸しを作ってしまったものだ。
冷静に分析を進めていると、病室に入れてはいけない獣のような人が入ってきた。

「カサンドラ、無事か!!」
「ここ病室です。煩い。」

そう言いながら目を合わせてくれたカサンドラと、直進してくるビッテンフェルト。
次の行動はカサンドラの予定の範囲内であった。
右手を握るビッテンフェルト。後ろにいたオイゲンは目を背けた。
予定の範囲内ではなかったことというと、ビッテンフェルトが平手打ちをしたことである。握ったままの拳をぶつけてくると思っていたカサンドラは、不愉快になりつつも、反論はしなかった。

「左腕を失ったのか」
「あのままでは生き残れませんでしたから。」
「左腕を失わずに生き残る手を考えようとは思わなかったのか!!」
「あー、予想通りの台詞。
脳筋じゃないんですからできるわけないでしょ!!
むしろ、生き残ったことを褒めてくださいよ!!」

カサンドラは器用に足で点滴を外し、右腕でバランスをとりながらベッドから立ち上がる。
日頃は態度と比例して実際より大きく見えるカサンドラが、この時は年相応に見えた。うっすらと涙ぐんでいたのだ。
これを見たビッテンフェルトもさすがに続きを怒れなくなっていた。
彼女は今後、ワーレンより前に義手になり、オイゲンより的確なブレーキと乱雑なアクセル役となる。
そして、1万光年も離れた場所にいる二人が、互いに軍人としての覚悟を決めた瞬間でもある。
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