7.軍人になる。 3/4

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争いがないということは、競争がないということ。比例するように、技術力や決断力は成長しない。環境が変わればトラブルに直面することが争いがあれば普通なのだが、何も起きないまま進んでいく。
ここは競争心のない嫌われものの集まりであると気づいたのは、配属されて2日めの朝である。
カサンドラは眠い頭を起こすために嫌いなパンを口にして、洗いたくもないが顔を洗い、鏡を見つめた。いつもならビッテンフェルトの声で目が覚める。目覚まし時計代わりにもなる。人を便利グッズみたいに見ていた訳ではないが、いないと不便なものだった。いたら逆に迷惑にもなりうる。
ビッテンフェルトを懐かしき人扱いしながら、競争心のない輩の群れに向かって歩く。つまらない退屈な日がまた始まるのだ。
事態が急展開を迎えたのは、配属されて1ヶ月以上経過したころ。カサンドラはさすがにこの生活に慣れていた。
つまらない偵察が始まる。同盟の選挙はこの月ではないので、遭遇戦になることもないと見ていた。これがそもそもの間違いである。
レーダーに複数の反応が発覚したことが始まりであった。報告を受けた司令官は、ただの小惑星であろう、と適当に済ませた。この判断が致命的な誤りではない。普通なら敵がレーダーに映るようなへまをしない、という先入観によるものだ。これがエル・ファシルの英雄ヤン・ウェンリーを生むものであったのだが、司令官は敵兵から学ぶ気はないようだ。
敵である同盟軍は、レーダーの不具合に気づけずに進んでいた。戦争による技術力の低下が表れた結果である。
こうして、遭遇戦が開戦されてしまった。
白兵戦の出番がない限りやることのないカサンドラは、詳しい戦況を知れる訳でもない。ただ静かに、生き延びることを祈った。
詳しい戦況は分からなくても、こんなときの噂とは非常に事実を明確に伝えるものである。ワルキューレの乗員達が、戦況は悪化していると話していた。退却しようにも退却が出来るような戦況ですらないのだろうか。
カサンドラは食堂でチーズを口にしようとした。激しい揺れでチーズが宙を舞い、カサンドラの頭から床に転がった。この揺れが攻撃によるものなら、脱出しなければならないほどのものだ。とにかく、今の揺れが普通ではないことは感じられた。
迷うより先に、脱出用ポットに向かって走る。案の定、脱出が必要な事態であると知る。今いる区画を閉鎖するつもりらしい。
ここからは時間と運を使う勝負になる。
カサンドラは閉まりかけた扉に滑り込んだ。
激痛と恐怖が襲う。「死にたくない」ではなく、「死ぬのか」という疑問系であった。そんな彼女に行動力を与えたのは、理菜の存在である。理菜が生きていた場合、今死んだら格下扱いされてしまうのではないか。

「見下されて堪るかよ!!」

大声が激痛と恐怖を払い除けた。
そして、滑り込みきれなかった左腕にレーザーナイフを向けたのだ。
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