47.999本のバラ 2/2

bookmark
ある日、リナは心配になってカサンドラのもとを訪れた。
自分に暴言を吐いたカサンドラをその瞬間は安心して見ていられたが、葬儀中の姿を見てどこか不安な気持ちを抱えていた。なにかおかしい、と感じていながら葬儀後に話しかけることはできなかった。
自分の勘違いかもしれない。心配をかけさせてしまったことをカサンドラはひどく気にするだろうと判断したのだった。結果、これがリナの後悔につながることになる。
彼女は呼び鈴を鳴らして反応を待っていたのだが、一向に出てくる様子がなかった。次はドアをノックして声を張り上げて呼んでみた。それでも反応がない。扉に手をかけると、鍵はかかっておらず簡単に開いてしまった。
緊急事態である可能性を真っ先に考え、ゆっくり扉を開けて中を覗き込んだ。異様な光景にリナは息を飲んだ。そして、警戒を解いて室内に入った。
そこにあったのは廊下を埋め尽くす大量の薔薇。種類はまざっていたものの、全て赤い薔薇で最近置かれたものだろうと推測できた。この薔薇が何を意味するのか、リナにはわからなかった。
リナは薔薇を踏まないようにリビングまで足を運ぶ。リビングにも同じように薔薇が床に散らばっていた。
しかし、一部の薔薇だけはリビングのテーブルに花束として置かれていた。その横には日記らしきものとカサンドラの義手が置いてある。
薔薇にも義手にも目もくれず、日記帳らしきものを手に取った。読んでくださいと言わんばかりなソレを開いた。
カサンドラの冷静で冗談の通じない性格から考えて、本当に彼女が書いたのかと疑いたくなるようなテンションの高い日記だ。すべて日本語で記載されており、きっと初めて読んだ人物はリナなのだろう。彼女の感情が面白いくらい手の取れる文章になっており、友人の死や結婚による思いの差など書いてあった。
途中から日記が書かれておらず、空白のページが続く。そして、日記の最終ページに誰かの綴った文章が書かれていた。
日本語で書かれた文章を見て、リナはそっと閉じた。
日記に記載されてあった謝罪と自分への後悔を読んで、彼女はこのバラの花束が誰に向けて置かれたものか理解できた。本来なら現場保存をしなければならないのだろうが、日記とバラの花束を誰の手にも渡してはならないと感じていた。

カサンドラの行方不明から10年が経過した。
あの日から毎年、リナはビッテンフェルト宛てにバラの花束を贈るようになった。カサンドラが伝え忘れた愛と感謝がきっとバラの花束に込められているのだろう、とロマンチックなことを考えていた。
この日はたまたまオイゲンがビッテンフェルトの墓参りに来ていた。リナがバラの花束を添えているのを見て、あることを思い出した。

「確か、カサンドラの友人でしたね」

オイゲンが話しかけたことで、リナは相手に目を向けた。ほぼ面識のない二人ではあったが、重苦しい雰囲気になることはなく、形式上の挨拶を終えた。
そして、オイゲンが小さく呟く。「ビッテンフェルト提督がプロポーズに使っていた花がバラでした」と。
セリフの中身にリナは衝撃を受けた。バラの意味が何であったかまでは考えていなかった。しかし、彼の言葉でカサンドラにとって大量のあのバラが素直な想いの現れであるでことに気が付いた。単純にビッテンフェルト提督への愛の形であると思っていたが、それは一部分に過ぎず、もっと深いものを表していたのだと感じた。

*****
電車の音がする。人混みをかき分けながら、目的地である駅までたどり着いた。
本当に懐かしいと思いながら、腕のない左肩を擦る。義手無しで歩くのは何年ぶりだろうか。

「だーからバイオはホラーゲームなのよ、夏目ってば」

懐かしい声がする。バランスを崩さないように気をつけながら、彼女は声のする方へ歩く。見知った二人組みを見て安堵して、気が付かれないように二人の後を追う。
楽しそうな会話をする二人の後ろに立って、ホームの電光掲示板に目を向けた。次に来る列車は当駅通過快速急行だ。アナウンスに耳を傾け、タイミングを見計らいながら、二人組の女子一人を線路に向かって突き飛ばした。想定通り、もうひとりが助けようと線路に飛び降りる。
すべてを確認した後自分も線路に向かって飛び込んだ。
[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -