45.その日は突然に 2/2

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※死ネタ注意
さらにため息をついた。男でないのにも関わらず、なぜ荷物持ちをさせられているのだろう。両手が荷物で塞がれ、元気な彼女の背中を追いかける。
服に興味はない。雑貨は利便性のないものには興味はない。本なら欲しいものはもう買った。自分が見たいものは何も無い。

「ほんとに何も買わなくて良かったの?」

デパートでこれだけ買ったお前がおかしいと言いながら、荷物を覗き込んだ。コートやよく分からない新書やアクセサリー。リナは金遣いが荒かったとは思わなかった、とカサンドラは呆れかえった。
そこに抽選をしているというアナウンスが耳に入った。デパートでよくある「いくら以上お買い上げの方に」という抽選会だ。住所を書いてもらうタイプではなくその場でくじを引くらしい。
目を輝かせてレシート片手に並び出すリナをベンチに座ってカサンドラは眺めていた。

「レシートの金額を拝見させていただきます。」
「どうぞ。あの、既に出ている景品はなんですか?」
「えぇ、既に2等の当デパートのレストラン無料券は当たってますね。確認が出来ましたのでこちらを回してください。」

ガラポンと言うのだろう。赤い新井式廻轉抽籤器だ。リナは思いっきり回した。
出てきた青い玉が特等や1等では無いことを示している。肩を落として参加賞を訊こうとするとベルが鳴り出した。

「おめでとうございます、3等でございます。3等は映画ペア無料券です」

お姉さんが綺麗な笑みを浮かべながら無料券を渡してきた。いらない、という言葉を抑えてリナは受け取り、笑顔をつくった。ベンチで魂が抜けたような顔を向けていたカサンドラにリナは満面の笑みを浮かべる。
いらないならあげればいいのだ。

「カサンドラこれあげる」
「ゴミ?」
「映画ペア無料券です!!」
「ふーん、いらない」
「観に行けばいいじゃん。久々じゃないの?
ビッテンフェルト提督とデートできるんだもん。しかもタダで」

リナから無料券を受け取ってカサンドラは眺めた。
本人がいらないものを渡されたことに気がついていながら追及しなかった。2人で出掛けることがタダでできる。タダで、も魅力的だがたまには2人で出掛ける機会をつくるのもいいだろう。どこかで嬉しく思っている自分がいる。アクション映画なら喜んでくれるだろうか。現代でいうミッションインポッシブルみたいなものがいいだろう。現在上映中の映画はどこで調べるのだろう。

「帰ろうか」
「私をさんざんこき使ってお礼は?」
「えー、ありがとうございます。これでいいかな」

どうでもいい会話をしながら、カサンドラは内心早く家に帰りたくてそわついてた。
表には出ていなくても、ビッテンフェルトとの外出を楽しみにしていた。自分からは上手く誘えない。カサンドラは不器用でもこの無料券さえあれば上手く誘える気になる。
ちょっとだけ浮かれていると目の前に救急車が走り去っていった。2人は救急車の背中を眺める。カサンドラは方向が自宅の方であることに気がついた。顔を見合わせ、向かって歩いてみることにした。
特に深い意味はなかったのだが、何故か歩みが早くなる。
救急車が止まっていたのはカサンドラの自宅だった。私有地でも緊急時には許可なく使用出来る。そのせいでリナもカサンドラも他人事のように言う。

「近所の人に何かあったのかな」

そう思いカサンドラは家に向かおうとすると、自宅から憲兵が出てきた。ただ事ではないと気がついたカサンドラは早足になって憲兵を捕まえた。

「何かあったんですか?」
「すみません、関係者以外は」
「ビッテンフェルト提督の妻です。それでもダメですか」

顔が硬くなった憲兵をカサンドラは睨みつける。睨みつけられたせいか、憲兵は動揺し目を逸らし口をつぐむ。態度に腹が立ったのだろうか。カサンドラは荷物を地面に落とすように置き、憲兵の胸ぐらを掴んだ。驚いて憲兵は変な声をあげた。
次に玄関から現れたのはメックリンガー提督だ。目の前の光景に驚きつつ、カサンドラの顔を見て納得したような表情に変わった。階級が高い人間を見たおかげで、胸ぐらを掴むのをやめたカサンドラはメックリンガーにも同じ質問をする。彼は目を伏せて答える。
その答えに反応できないカサンドラを横に、リナは思いついた疑問を口にした。

「ビッテンフェルト提督が午後を有休にしていたなんて聞いてないよ?」

この疑問が、カサンドラがメックリンガーの答えに対して反応できていない理由になっていた。
「ビッテンフェルト提督が亡くなりました。」
という台詞をカサンドラは飲み込めずにいた。
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